総理の座を射止めたとたん、なぜ“石破色”は消えたのか…先崎彰容氏が指摘する「箸の使い方」よりも石破総理に期待したい「国民のマインドを変える言葉」
船出から2か月、支持率が一向に回復の兆しを見せない石破新政権。38年の苦節を経て自民党総裁の席につくと、あの“石破節”は影を潜め、早くも首相の退陣を囁く声まで聞こえてくる始末。かくなる石破首相に、起死回生の一手はあるのか。思想史家の先崎彰容氏にきいた。 【写真で比較】総裁選直後と、12月の予算委員会に臨んだときの石破首相 ***
先の総選挙で、自民党と立憲民主党に代表される「保守vs革新」という二項対立は、もはや時代遅れになったことが明らかになりました。若者の関心は保革ではなく、「新旧」という遠近法になっている。国民民主党やれいわ新選組、日本保守党などの政党は「斬新」という共通点がある一方で、自民や立憲、公明や共産は“古い”政党であり、自民と共産を保守的だとみる若者までいます。既存政党は古臭く、どちらでも変わらない。この「閉塞感」こそ、現代社会のキーワードです。 どんでん返しを経て石破茂氏が自民党総裁に選ばれたのは、自民党内における「閉塞感」打破の最終手段でした。しかし、いざ宰相の座についてみると、それまでに掲げていた政策や歯に衣着せぬ発言は鳴りを潜め、「古い」自民党に飲みこまれてしまった。政党支持率が低迷状態にあるのも、ここに一因があるでしょう。 こうして迎えた2025年。石破首相が打つべき「次の一手」とは何なのか。これまでの言動や、直接首相本人と対話した内容も振り返りながら、展望したい。
「防災庁」の必要性
まず前提として、古い自民党に飲みこまれ、“石破色”を出せない政権運営のままではいけません。 12月の国会中、石破首相の答弁には、少し復活の兆しが見られた。歯切れの良い発言も見受けられるようになっています。ようやく、本来の姿を取り戻しつつあるといったところでしょうか。 このような中でカギとなるのは、首相肝いりとされる「防災庁」と「地方創生」という2つの政策を、正しい方向に導いていけるかという点にあると考えます。 防災庁については、首相に就任するや否や「設置準備室」を立ち上げ、12月には有識者会議の設置を表明した。国民にどれだけ届いているかは別として、矢継ぎ早に施策を打っている印象があるのもたしかです。20年の総裁選のときも、菅義偉氏が「デジタル庁」、岸田文雄氏が「データ庁」の設置を提言していたのに対し、石破首相は「防災省」の設置を訴えていた。ここには相当なこだわりがあるのでしょう。 福島の地で東日本大震災の被災者となった私自身も、この取り組みは肯定的にとらえています。無数に積みあがった瓦礫の山、黒々と盛り上がった廃棄物を前に、一被災者としてプッシュ型の支援の遅れを強く感じた経験があるのです。 日本の官僚は、総じてジェネラリストになることが求められます。現在内閣府に設置されている防災部門も、各省庁からの出向者が中心となっていて、かつ2、3年も経てば古巣に戻ってしまう。このような専門性が育ちにくい体制のままで、本当に防災機能が高まるといえるのか。 海外の官僚は、修士号や博士号をもったスペシャリストが、長く専門分野を担当し続けているのが一般的です。我が国でも、司令塔となる防災のスペシャリストが中心軸となり、各省庁に助言をする体制をとる方が理にかなっている。官僚機構改革に一石を投じるつもりでやればいい。 現に、防災庁という構想自体を否定する声は、比較的少ないのではないでしょうか。こうした取り組みについて、もっと強くアピールしていくことも必要だと考えます。