総理の座を射止めたとたん、なぜ“石破色”は消えたのか…先崎彰容氏が指摘する「箸の使い方」よりも石破総理に期待したい「国民のマインドを変える言葉」
宰相としての役割
「国家観を語れ」というと、抽象的にとらえられるかもしれませんが、ここを大事にしないと、些末な数字にとらわれて大局を見失うことになる。 「103万円の壁」の議論も、国民の手取りを増やすという意味で重要ではあります。とはいえ、本来は官僚や有識者会議などで議論されるような、言ってしまえば“小粒”の話に、国のトップがのめり込んでしまっているともいえる。 だからこそ、一国の宰相には、国家の方向性を指し示す強い言葉が求められるのです。この役割を、石破首相は間違えてはいけない。 論戦時の言葉の切れ味や、ある種の「愚直さ」が期待されて首相になったのが石破氏でしょう。その本来の良さを取り戻すのが一番の筋であって、いくら箸の使い方で騒がれようと、首相自身がポピュリズムに走る必要はない。人材が豊富な自民党なのだから、それは国民民主党の玉木代表のようにうまくSNSを活用する若手議員に任せればよいし、首相が外交に明るくないのなら、長島昭久総理補佐官のようなブレーンをうまく使いこなせばいい。 こうしたスタンスの上で、当面は「防災」と「地方創生」を中心に、内政についての話を愚直にアピールしていくことが、石破政権復活に向けた狼煙となるのではないでしょうか。
先崎彰容(せんざきあきなか) 1975年、東京都生まれ。東京大学文学部倫理学科卒。東北大学大学院文学研究科博士課程を修了、フランス社会科学高等研究院に留学。現在、日本大学危機管理学部教授。専門は倫理学、思想史。主な著書に『ナショナリズムの復権』『違和感の正体』『未完の西郷隆盛』『維新と敗戦』『バッシング論』『国家の尊厳』『本居宣長―「もののあはれ」と「日本」の発見―』など。 デイリー新潮編集部
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