【連載 泣き笑いどすこい劇場】第26回「悔しさ」その1
史上2位タイの同一取組連敗記録になった
思うようにいかなかったとき、ライバルに競り負けたとき、込み上げてくるのが悔しさです。 自分を責め、相手を恨んで唇をかみしめ、歯ぎしりし、ワナワナと身を震わせたことはありませんか。 こんな姿、決して他人には見られたくありませんが、これこそがさらなる高みに押し上げる秘薬。 人の上に立つ者、番付が上位の者ほど、真の悔しさを味わった人間、と言ってもいいでしょう。 そんな悔しさにまみれた力士たちのエピソードです。 ※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。 【連載 泣き笑いどすこい劇場】第17回「師の恩」その1 屈辱の28連敗 かつては五分の闘いをしていたのに、手もなくヒネられる。これほど悔しく、情けないことはない。琴光喜と朝青龍といえば、もともとは出世を競い合ったライバル。朝青龍が大関に昇進する2場所前の平成14(2002)年夏場所には2人で東西の関脇を分け合っている。決して引けをとっていなかったのだ。 こんな二人の関係が変わっていったのはこの年の九州場所12日目、琴光喜が右からの上手投げに屈してからだった。ちなみに、この場所、朝青龍は初優勝している。以来、6勝3敗と対戦成績で勝ち越していた朝青龍に手も足も出なくなった。 平成19年名古屋場所11日目も土俵中央で叩きつけられ、初日からの連勝も10でストップ。対朝青龍の連敗数もとうとう6年越しで27を数え、栃光が北の湖相手に記録した29連敗に次ぐ史上2位タイの同一取組連敗記録になった。 その夜、琴光喜は師匠の佐渡ケ嶽親方(先代、元横綱琴櫻)に誘われて外出。鉄板焼を食べながら、 「くよくよするな。残り全部を勝つつもりで、思い切りやれ」 と励まされたが、やはりこの敗戦のことが重くのしかかり、頭から払いのけることができない。翌朝、琴光喜は寝不足で真っ赤な目をしながら朝稽古に現れ、こう話した。 「この悔しさ、そう簡単には晴れないよ。夕べは夜中に目が覚めた。蚊にもあちこち刺されて、思わずクソーッと大声で叫んでしまった。時計を見たら(午前)2時57分でした」 この場所の琴光喜は好調で、久しぶりに優勝争いに絡んだが、千秋楽に稀勢の里(現二所ノ関親方)に負け、朝青龍に賜盃をさらわれている。朝青龍戦の負けが大きく響いたのだ。そうなる予感があったから、悔しさも倍加したのかもしれない。 この琴光喜の対朝青龍の連敗記録は28まで延び、ようやくストップしたのは平成20年春場所13日目のことだった。左からの切れ味鋭い上手出し投げでこの天敵を破った琴光喜は、 「やっと胸のつかえが取れた。勝ち越していたら(この時点ではまだ7勝6敗)、すぐにでも祝杯をあげたい気分です」 と目を糸のように細くした。 月刊『相撲』平成24年12月号掲載
相撲編集部