なぜ「情熱大陸」登場のボクシング界の“ホープ“堤駿斗は東京五輪代表に選ばれなかったのか?
5人を選考基準に照らし合わせると予選で1回戦を突破したのは、ミドル級の森脇一人。あとの4人は堤も含めて、全員が1回戦で敗退した。ゆえ一人目は森脇で確定。残り4人の対象4大会での実績を見ると、メダリストは成松一人で、2018年のアジア大会で銅メダルを獲得している。リオ五輪代表でもある成松は、4大会中3大会で代表に選ばれ、世界選手権ではベスト16に進出した。 本強化委員長も、「森脇は1回戦突破、2回戦進出で選ばれた。成松は、アジア大会の銅メダル、その他過去の実績、世界選手権で2勝してベスト16に入っている」と説明した。 2人まではスンナリと確定し、残り1枠を堤、田中、梅村の3人が争ったわけだが、この対象4大会で堤が出場した大会は2018年のアジア大会のみ。逆に田中は、2017年の世界選手権、2018年のアジア大会と2大会に出場し、アジア大会では1回戦を突破している。実績という評価では、田中が一歩リードしていた。ちなみに田中は3階級制覇王者、田中恒成(畑中)の実兄だ。 本強化委員長も、「田中も2017年の世界大会、2018年のアジア大会で1回戦を勝っている」と、付け加えた。 選考基準で決めれば、田中で順当だった。だが、堤は、今回の予選で1回戦敗退したが、3ラウンドにまさかの失速をしての2-3判定での惜敗。調整ミスがあり、本来の実力を発揮できなかったという事情もあった。ポテンシャルとしては、メダルに届く可能性を持つ。本強化委員長も、堤の合否について議論があったことを明かした。 「堤選手については議論された。選手規定にない所までほじくったような内容で議論されたが、結果的に、そうすると全部に影響してしまう。だから最初の選手の選考の基準をもとに選出した」
堤の減量方法など、なぜ、今回の予選で実力を発揮できなかったのか、という経緯まで分析され議論されたという。だが、選考基準を逸脱して選出することによって起きるハレーションを問題視した。そうなれば、山根体制の“過ち“を繰り返すことになり、関係団体からの反発がおき、組織のガバナンスも疑問視されることになるだろう。 そもそも、この選考基準で正しかったのか?という議論もあるが、内田貞信会長は「国内枠の選手選考は強化委員会を中心に議論いただき決定した。平等性があり、この結果でよかったと思っています。メダルを期待できるメンバーが揃った」と選考経過を評価した。 「本番でメダルを獲得できるのは誰か?」という観点に立てば、今回の選考基準が決してパーフェクトだったとは思わないが、山根時代の選考方法と比較すれば透明性、平等性はしっかりと担保されていた。感情論に流されず胸を張れる立派な3人が選出されたと思う。 これで堤の五輪出場の可能性がゼロになったわけではないが、そのラストチャンスの舞台、世界最終予選(5月12日からパリ)が新型コロナウイルスの影響で延期になった。しかも、いつ、どこで行われるかも、まったく不透明で実施のメドは立っていない。 本強化委員長は、”崖っぷち”の堤にエールを送る。 「(五輪出場を勝ち取る)可能性は十分にあると思う。今回は、本人にとっても厳しい結果であったと思う。その分、ぜひ世界最終予選がある“てい“でがんばってもらいたい。そこで出場枠を取れば、開催枠よりも価値あるものでメダルに近いものになっていくと思う」 ピンチはチャンス。この日、連盟が新型コロナウイルス対策としてメディアの個人接触を制限したため、堤を取材できるチャンスはなかったが、心の内に抱いているに違いない“悔しさ“を力に変えてもらいたい。挫折は人を強くするのだ。