浅井健一×UAが語る充実と変化、最新作で示したAJICOの“在り方”とは
初期AJICOをイメージできた「微生物」
──4曲目の「微生物」もUAさんの作詞です。 UA:これもタイトルからでした。これは本当にあっという間に書けた。今回、AJICOに取り組むにあたって、浅井さんが「最初期の感じに戻れたりしたらいいね」と言っていたことがあって。それを聞いて、私は本当に戻るのは無理だろうと思いつつも、それってどんな事なのかなあと考えていたんです。で、「微生物」のデモを聴いた時、『深緑』のなかに入っていた綺麗な古い映画音楽のようなギターの音色を思い出した。今は51歳(取材時)の私にも、まだ未来がよく見えなくて一生懸命必死で毎日を生きていた時代があった。その感覚に戻って書いてみた。そういうの、楽しくて好きなんですよ。 ──たしかに浅井さんのこのギターの音色はすごく美しいですね。 UA:そうなんですよね。ソロも最高で。だから要は時間の話ですね。『モモ』(ミヒャエル・エンデ著)という小説のなかで主人公のモモも言っているけど、時を感じるのは人間だけだとすれば、それは心が時を感じているのだろうなって。時間泥棒というのは心を奪われることとイコールなんですよね。 浅井:それ、読んだことないわ。 UA:本当? 意外だね。すごく好きだと思うよ? 『星の王子さま』レベルの名作。 浅井:読んでみるわ。うん。 UA:ぜひぜひ。 ──ちなみに浅井さんにとっての最初期のAJICOのイメージとは? 浅井:“冒険”だね。 なんか一生懸命やっとった。最高に楽しかったよ。眩くて、みんな若かった。 ──今回のEPは全体的にブライトなサウンドですよね。 UA:そうなの。すごく温度があったかい。『深緑』ってもっとスモーキーでローファイだったでしょ。歌詞も私なりに浅井パイセンの言葉を咀嚼して、令和のロックとしてちゃんと響かせようと頑張りました。20代の音楽好きに通用するようなサウンドにしたつもり。 ──そして、〈丁寧なテキストより馬鹿な声を聞きたい 単純で複雑な心は微生物みたいね〉という最後のくだりは、なかなか出てこない言葉だと思います。 UA:これは私もびっくりした。ここ、実はメロがないエリアだったんです。つまりアドリブで歌ったの。歌詞を書き上げて、ハミングしながらiPhoneで録音していたら無意識に歌っちゃったんです。だからたまたま。 ──今ちょっと鳥肌が立ちました。 UA:私も自分ですごくびっくりしちゃって。現実に、以前は人と馬鹿話をしていた時間の分だけ今は携帯を見ている感じってあるじゃないですか。自然と口をついて発した言葉だったけど、すでにいろんな人から褒められるので感動しています。 ──「キティ」は浅井さんの作詞です。この曲も「あったかいね」同様、日常のなかで見る些細や夢の物語という感じですが。 浅井:そうだね。だいぶ前に書いてあった歌詞だったんだけど、やっと日の目を見た。今回発表できてよかった。あれ。知ってる? 昔けんかした兄貴の家を目指しておじいさんが芝刈り機で旅する映画。 ──『ストレイト・ストーリー』(2000年公開のデヴィッド・リンチ監督作)ですか。 浅井:そうそう。俺はああいうシチュエーションにめちゃくちゃ感動するんだわ。普段の生活のなかにすごく大事なことがたくさんある。誰かの何気ない人生のなかにむちゃくちゃ感動することが隠れている。そういうのを曲で表せたらいいなっていう思いが心のどっかにあるみたい。こういう曲を聴くと、みんなそれぞれの頭の中でそういう場面を思い描いてくれるじゃん? それが自分にとっては嬉しいんだよね。 ──UAさんはこの浅井さんの2曲の歌詞を最初に読んでどう聴きましたか? UA:もう最初は全然分からなかった。でも、あまりそこで考えたり尋ねたりしても仕方ないし。自分も書く立場として、ほかの人の詩の世界に口を挟むのはちょっと違うと思うし難しいことなんで。おいおい分かるかなって感じでしたよ。ただね、この人、最初は「キティ」も私に歌わせようとしたんで、「それは違うだろう」と抵抗しましたね(笑)。 浅井:UAが歌っているバージョンもあるんだけど、それもすごくいいよ。 UA:私の歌はちょっと強みがあり過ぎるとこがあるし、AJICOの時はそればかりが求められている感じでもないと思うから。まあ結論としてはベンジーファンが超喜んでくれるんじゃないかな(笑)。