浅井健一×UAが語る充実と変化、最新作で示したAJICOの“在り方”とは
荒木正比呂のプロデュースワークが光る表題曲
──今回の制作はどのようなプロセスで? UA:浅井さんが作曲したデモを元に、曲ごとのアレンジャーさんに一旦バンド用のデモを打ち込んでもらって。それを浅井さんが聞いて、ここは要らない。ここは好きという意見を伝えて、さらにブラッシュアップをするという感じかな。 ──新作では鈴木さんに加えて、UAさんのデビュー25周年の制作にも参加されていた荒木正比呂さんも合流されています。 浅井:荒木くんも正人くんもすごく冷静。俺とは真逆の世界の二人なんで、バランスが取れてよかったね。 UA:「徹底している」という点では、荒木くんはある意味、正人くんよりも徹底しているかもね。例えば「ラヴの元型」のBPM一つ取っても、当初のデモよりももっと速めにしたり、私と一緒になってかなり念入りに探ってくれましたね。この曲の歌詞は結構締切ギリギリに書いたんだけど、この勢いのあるテンポじゃなかったら、この歌詞は浮かんでこなかったと思う。 浅井:そう。俺には理解できないことを一生懸命やってたな。 UA:荒木くんは元々もちろんバンドをやっていたんだけど、どちらかというとエレクトロとかテクノ系、デジタル系が得意で、しかも名古屋出身で、ブランキー(・ジェット・シティ)もリアルタイムで観ていた人。音楽的に非常にスマートで、私たちのことを理解した上で、あまり言葉で説明しなくても、その時に必要なエッセンスを的確に見出してくれた。しっかりと時間を掛けて関わってくれましたね。ミックスエンジニアの奥田(泰次)くんとも仲良しなので、メンバーがスタジオに入る前からいろいろとセッティングしてくれいて。ドラムのチューニング、楽器のエフェクター、それぞれの音の質感まで緻密に練ってくれていましたね。おかげで、「ラヴの元型」は自分の想像を超えた新しいAJICOの曲になりましたね。 ──たしかに新境地というか、めちゃめちゃグルーヴィーでダンサブルなアレンジですね。 浅井:「ラヴの元型」は、俺からデモを荒木くんに渡したんだけど、返ってきたやつを聴いて、スッコケたよ。心がズッコケた。全く変わっていてね。「元々のほうがかっこいいよ。こんなの絶対に嫌だ」ってUAにも言ったんだわ。でも進行していくうちに、これもいいなと思い始めて。今ではこれが正解だったんだと思ってる。 UA:荒木くんはアレンジを打ち込みで戻してくれるから、多分、浅井さんはその人工的な感じにびっくりしたんだよね。 浅井:そうそう、プラスチックだった。おもちゃみたいな感じで。まだちゃんと会ってなかったから「荒木くんってどんなやつなんだ?」みたいな感じだったもん。でも会ったらすごくいいやつで、今は最高の曲が出来たと思ってるよ。 ──浅井さんのリフといい椎野さんのドラムといいTOKIEさんのベースといい半端じゃないグルーヴで。 UA:「ラヴの元型」のトッキーのベース、すごいよねえ。 浅井:すごいって言ったらMVのUAの踊りもすごいわ、ナイス52歳。ライブでも観たいよ。あれって練習したの? UA:いやいやインプロビゼーションですよ。 ──聞くところによると今回のEPはレコーディング全体で2週間も掛からなかったとか。制作期間と仕上がりの充実度は必ずしも比例するものではないかもしれませんが、これはかなり順調なケースだと感じられます。 UA:うん。すごく短かった。2週間は掛かってない。平日で出来た、みたいな。 浅井:メンバー全員いたのは5日ぐらいじゃない? あとは俺とUAでダビングしていたし。 ──『接続』から始まったAJICOの続きでもあって、6曲入りのEPだけどフルアルバムのような充実度が感じられて。あと、ミックスもいいですね。 UA:奥田くん、本当にいいですよね。演奏の方は皆さん腕前保証済だし、レコーディングはほとんどファーストテイク的なものばかりでしたね。 ──先程も話題に上った表題曲「ラヴの元型」が象徴的ですが、今回はアプローチこそ6曲それぞれ異なるし、サウンドプロデュースも鈴木さん荒木さんのお二方がいるんだけど、全体としては今の世界や文明における“過剰さ”への思いが通底していますね。 UA:そこはやっぱりコロナ禍以降のこの3年分で感じたこと。コロナ禍に入って『接続』があったわけだけど、特に「ラヴの元型」の歌詞に表れている通り、ここ2、3年のモードが大きかったですね。 浅井:俺は別にあまり何も考えとらんね。その時に出てきた自分の気持ちを書いている。 UA:あと、J-WAVEとは別のラジオ番組でもこの話題になったんだけど、自分はやっぱり社会と向き合う上で“お母さん”であることが外せなくて。その時も話が長くてベンジー笑い出しちゃったんだけど、自分だって“お父さん”じゃん?って。やっぱ親なんですよね。お互い、まだ未来がはっきりと分からないティーンエイジャーを育てている最中なので、そこでの価値観なのか概念なのかは分からないけど、打ち合わせなんて一切しない間柄なのに、私は結構共通点があるんだなって思いましたね。 ──「ラヴの元型」の作詞はUAさんですが、どのような思いと流れでこのリリックに着地したのでしょうか? UA:多分、常日頃見ていることや学者さんとか教授さん、作家さんの本の言葉やYouTubeとかで拾った言葉が元になったかな。UAの時もそうだけど、最近の私は特に作詞において「こういうこと言いたいぞ」とか最初に全く考えない。特に今回のAJICOは意図的にもそうした。とりあえずは曲を聴きながら、言葉を思い付くままババーッと羅列していく。これはもう“感覚です”としか言いようのない領域だけど、そこから徐々に組み立てていくという感じですね。好きな本のページをバッと開いて、神託みたいに言葉を拾う場合もあるし。以前から好きな社会学者の宮台真司さん、生物学者の福岡伸一さん、解剖学者の養老孟司さんの言葉からも拾っていて。以前は延々と“神”ならぬ“紙”との対話みたいだったけど、最近は昔よりかなり気楽にやれています。言葉の画をデザインしている感じというか。そこに自信も付いてきました。長くやってきた甲斐があるって感じですね。 ──書き進めていくうちに、言葉に詰まってしまうような場面はやって来ないんですか? UA:詰まるようなイメージの曲は最初から手を付けない(笑)。そこの見定めも、長くやってきた経験で分かるようになったかな。