トランプのふしぎな勝利(下)“危険な賭け”人々は革命を求めた 大澤真幸
ついでにクリントンのメール問題について記しておく。私の推測では、クリントンのメール問題について口うるさく文句を言っている人の大半は、ほんとうは、もうそんなことが致命的な欠陥である、などと思ってはいない。トランプのハラスメントや脱税的な節税を赦すような人たちなのだから、彼らはけっこう寛大だ。ただ、クリントンに明白な欠陥があると、彼らは安心するのである。 何に安心するのか。安心して、トランプに投票できるのだ。彼らとしては、クリントンではなく、トランプを支持する「口実」が欲しかったのだ。かんたんにはそれは見つからない。幸い、クリントンは、過去に、はっきりとしたミスをしてくれている。それがメール問題だ。普通に考えると、クリントンよりトランプを選好する理由はどこにもないので、トランプを支持する者は、自分がやったことが正しいかどうかということについて、確信をもてずにいたのだ。 クリントンにメール問題があったおかげで、その不安を払拭することができたのである。投票直前まで、クリントンがメール問題のことでグチグチと言われたのは、それが政治家の行動として大問題だったからではない。トランプ支持のための口実を無意識のうちに探していたアメリカの人々のアンテナを、それが心地よく刺激したからである。