谷原章介さんに聞いた理想の夫婦論「無視や無理解、静かな拒絶もDVだと思うんです」
── 妻が縮んでいくという現象や、デイビッドという男性についてはどう思いますか? 谷原 これは夫婦のディスコミュニケーションの話で、奥さんが縮んだというのはあくまでも比喩だと僕は思っているんです。人は、相手から軽んじられて意見を無視されたり、理解されていないと感じると、そこに居ないような気持ちになることがあるじゃないですか。 ドメスティックバイオレンスって、暴言とか暴力だけではなくて、無視や無理解、静かな拒絶も僕はDVだと思うんです。デイビッドは自覚はないと思うけれど、たぶんそういう要素がどこかにある人で。 相手の不安に寄り添う創造力も十分ではないので、物語の後半で、デイビッドがステイシーに対してよかれと思ってしてあげることも、ステイシーにとっては的外れだったり。 結果、ステイシーは夫との関係性に疲れ、子育てにも疲れ、消えていなくなってしまいたいぐらい追い詰められているのかもしれない。デイビッドの無理解や、奥さんの気持ちを知ろうとしない姿勢がステイシーを縮ませてしまったんじゃないのかな……。 ── 惹かれ合って結婚した2人のはずなのに、なぜそうなってしまうのでしょう。 谷原 2人は結婚7年目で子供はまだ2歳。デイビッドは仕事も頑張らなきゃいけないし、家族の生活を支える責任もあって大変だと思うんです。一方、ステイシーのほうも、家に入ることで仕事のキャリアが断絶してしまう辛さや、自活できていないことへの忸怩たる思いがあるわけで。 やはり誰もが自分で働き、自分の力で稼いだお金で食べていると胸を張って言いたいのに、家に入ることで「食べさせてくれてありがとう」という立場に置かれてしまう。ステイシーとしては、「対等なはずなのに(いつも一方だけが)“ありがとう”ってなんなの!?」と思いますよね。 加えてステイシーは、家のことや子育てのことをデイビッドに相談したくても聞いてもらえない無力感や苛立ちがあり、それが7年間積み重なって日々の文句につながってるんじゃないかと思うんです。そんなふうに、まだまだお互いが、自分としても夫婦としても折り合いがつかない状況にあるのだと思います。