66歳で離婚、夫の墓に入りたくない。檀家としての務めも大きな負担に。100万円払って2基を合祀、娘や息子にも感謝され
墓じまいを経験した人はなぜ決断し、どのような段階を踏んだのだろうか。「お墓」に翻弄された3人の話を聞いてみると、今の時代の課題が見えてきた * * * * * * * ◆何十年も《嫁》として守ってきたが 阿部真澄さん(71歳・仮名=以下同)が山形県の内陸部にある阿部家の墓じまいを終えたのは、2022年10月。思い立ってから5年の歳月がたっていた。 阿部さんは舅、姑を見送った後、66歳の時に夫と離婚。地域のしがらみを断ち切ろうと決め、宮城県・仙台市へと引っ越した。 「夫が勝手に家を出ていく形で離婚したので、家は私の名義になりましたが、その家も車も売り、都会に引っ越したのです。家を引き払う際、仏壇は処分。2基あるお墓も、いずれ墓じまいしようとは思っていました。死んでからも血のつながらない人たちと同じ墓で過ごすと考えただけでゾッとしますし、3人の子どもたちに《負の遺産》は残したくありませんでしたから。そもそも離婚したので、本来、私にはお墓を守る義務はないんですよね(笑)」 お墓がある場所はお寺の裏山。雨が降ればぬかるむし、周囲は雑草が生い茂っている。盆暮れやお彼岸、命日の前日、墓の掃除をするのは若夫婦の役目だった。 阿部さんは嫁いでから何十年と、重い木桶や掃除道具を持って斜面を登り、当日は供物を抱えながら姑の手を引き、お墓へと向かっていたという。
2基のお墓のうち1つは、元夫の両親とその親族が眠っているお墓。もう1基には、舅の兄家族が入っている。そちらのお墓は継承者がいなかったので、阿部さん夫婦が守っていた。 「2基あると、檀家としてとにかくお金がかかるんですよ。毎月住職さんがお経をあげに来るので、そのたびにお花やお菓子を用意し、お布施も払わなくてはいけません。年に数回ある講や大きな行事の際はお寺にお手伝いに行き、お布施も払う。お手伝いはもちろん《嫁》の仕事です」 お寺が駐車場と納骨堂を新設する際には檀家に寄付が振り分けられ、阿部家も50万円払った。 「仙台に引っ越して1年後、思い切ってお寺に行き、合葬にしたいと住職さんに言ったんです。すると『お墓があるじゃありませんか』と一言。『お墓があるのに合葬にするなんて、なんと非常識なことを』と言われたような気がしました。私は遠くに住んでいるし、2人の娘は東京、私と息子は仙台で暮らしていると事情をお話しし、永代供養をお願いしても、『うちではやっていません』と、なんとなく怒ったような口調で……。住職が去った後お寺の関係者に、『これ以上、檀家が離れると困るんだ』と言われました」 以来、怖くて住職と話せなくなったという阿部さん。それでも年に1度はお寺から経費の振込用紙が送られてくるので、きちんと払い込んでいたという。 「私は、決して信仰心がないわけではないんです。引っ越してからはインターネットで墓掃除の業者を探して、お盆やお彼岸前には掃除をお願いしました。小さな集落なので、お墓が荒れると、どんな噂を立てられるかわからないし。とにかくお墓の存在が重たくのしかかっていました」