高速化した東京マラソンで露呈した日本の致命的弱点
優勝したキプサングと井上のタイム差は4分24秒。これが世界と日本の実力差だ。 東京マラソンは今回からコースがリニューアル。ランナーたちを苦しめた佃大橋など、臨海部における橋、坂、風を避けたレイアウトになり、「高速コース」として生まれ変わった。前回までは日本人選手に合わせたようなペース設定だったが、今回は世界記録を目指したように、「グローバル・スタンダード」ともいうべきレースディレクションに方向転換した。 その結果、日本勢は誰もトップ集団についていくことができなかった。これはどこかで見たことがある光景だなと思っていると、日本勢が中間点を前に後退していった一昨年の北京世界選手権を思い出した。振り返ると、昨年のリオ五輪も集団のペースが少し上がっただけで日本勢は対応できなかった。 ちなみにリオ五輪の優勝タイムは2時間8分44秒。中間点を1時間5分55秒で通過した後、金メダルを獲得したエリウド・キプチョゲ(ケニア)は30~40kmの10kmを29分09秒で突っ走った。また同大会では後半に猛烈な追い上げを見せて、6位に食い込んだジャレッド・ワード(米国)以外の入賞者は、30kmまで先頭集団でレースを進めている。後方から脱落した選手を拾っていく、日本勢が得意としてきたようなレースは世界で通用しなくなりつつある。日本のマラソン界に足らないのは絶対的な「スピード」だ。 東京で異次元の走り披露したキプサングが履いていたのはアディダスの「サブ2」というシューズだった。アディダスのライバル社であるナイキは、昨年12月に「マラソン2時間切り」を目標にしたイノベーションプロジェクト『Breaking2』を発表した。 世界は「2時間切り」という日本では考えられないほど、大きなスケールの取り組みを始めている。世界がサブ2に向かっているということは、レースはさらに高速化していくということだ。近い将来、ハーフで1時間を切るペース。すなわち、1km2分50秒というスピードで42.195kmを駆け抜けるランナーが出てくるかもしれない。いまだに「サブ10」(2時間10分切り)を達成すれば、及第点ともいえる日本陸上界は時代から取り残されている。 サブ2は、10km28分20秒を4回ちょっと続けて走ることになる。1万mで28分を切れないような選手はまったく相手にならない。グローバル・スタンダードで考えると、日本が取り組むべき「方向性」は明らかだ。 本気で世界と戦う気持ちがあるなら、「2時間8分台」ではなく、せめて「2時間3~4分台」で走るためのアプローチを考えないといけない。2時間8分台は5kmを15分10~15秒というペースになるが、2時間4分台なら14分45秒、2時間3分台なら14分35~40秒というペースが必要になる。2時間8分台と2時間3~4分台では求められるスピードが全然違ってくる。2時間3~4分台で走破するために、2時間8~9分台で走ることがステップになるのか。それとも、2時間3~4分台のペースでどこまで行けるのかを試すのか。目指すべきスタイルはおのずと見えてくるだろう。