高速化した東京マラソンで露呈した日本の致命的弱点
今夏に開催されるロンドン世界選手権の男子マラソン代表選考レースは4つある。 各選考会で日本人1位の成績を収め、派遣設定記録(男子は2時間7分00秒)を突破すると代表「内定」となるが、日本人選手で「2時間7分00秒」という目標を掲げていた選手はいない。福岡国際は川内優輝(埼玉県庁)が日本人トップで2時間9分11秒、別府大分は中本健太郎(安川電機)が制して2時間9分32秒。びわ湖を残すとはいえ、東京に出場した有力ランナーは、「2時間8分台で日本人トップになれば日本代表になれる」と考えていて、その“先”を見つめているようには感じなかった。 コンデイションにも恵まれた高速コースの東京で2時間8分を切れないようでは、アフリカ勢とは勝負できない。世界大会に「選考レースで結果を残した3人」を選ぶのが目標なのか。それとも世界大会で「メダルをとる」のが目標なのか。日本陸連も東京マラソンのように大胆に舵を切る必要があるだろう。たとえば、選考基準に「選考レースで2時間8分を切らなければ代表に選ばない」という項目をつければ、選手たちの“目線”も変わるはずだ。 条件の悪いレースも出てくるが、その場合は、「2時間8分以内の走りに値するだけのレースを見せた選手」という条件を付け加えてもいい。いずれにしても、日本でしか評価されない低レベルのなかで争っても、大きな進歩は見られない。 結果だけを見ると、厳しい現実を突きつけられた今回の東京マラソンだが、希望の光も差し込んでいる。 それは初マラソンとなった設楽悠太の快走だ。設楽はついていく予定だった1km2分58秒ペースで引っ張るセカンドペースメーカーが機能しなくても、サードペースメーカーの背後にまわることはしなかった。 「他の日本人選手が行かなくても、気にしていませんでした」と、1万m27分42秒71のスピードを生かして、駅伝で見せるような積極的な走りを披露。トップ集団を追いかけるように、前半から攻め込んだ。ペースメーカーの力を借りることなく、中間点を1時間1分55秒で通過。途中まで2時間3~4分台を狙えるペースで走っていた。終盤は失速したものの、練習では35kmまでしか走っていない。しっかり準備したうえでマラソンに参戦できれば、終盤のペースダウンは抑えられるはずだ。 日本陸連の瀬古利彦長距離・マラソン強化戦略プロジェクトリーダーも「積極的に行きながら、2時間9分台でまとめてくれました。マラソンの能力が高いなと感じました」と設楽を評価した。 さらに、「4分半という世界との差を埋めるのは難しい。でも、設楽君のように、スピードのある選手が世界基準のレースをしてくれれば2時間5分台、4分台は出ると思います」と話した。 東京五輪まであと3年半。世界と戦うためには、設楽のようなスピードランナーが高速レースにどんどんチャレンジしていく。現状を考えると、この方法しか日本マラソン界の突破口はないような気がしてならない。 (文責・酒井政人/スポーツライター)