ネコ動画を地球に届けたレーザー、最長飛距離を更新中
宇宙におけるレーザーの未来
シンプルな仕組みのように見えるかもしれませんが、ではなぜNASAは今までDSOCを使えていなかったのでしょうか? 理由はいくつかあります。レーザービームが地球に到達するとき、その幅は無線に比べてかなり狭く、無線が150万マイル前後あるのに対し、レーザーは数百マイルほどです。そのためレーザービームを地球側のステーションに到達させるには、レーザー到達時点での地球の位置と地球上でのステーションの位置を正確に狙って送信する必要があります。 光通信の実験は、地球の軌道や月といった比較的近い位置からの通信ではすでに実績がありましたが、直近のDSOC実験は、レーザービームでカバーされた最長距離になりました。NASAはこれから予定される深宇宙へのミッションを見据えて、通信技術の精度を高めようとしているのです。でも長距離ということは、地球上のターゲットにレーザーを正確に向けることがより難しくなります。深宇宙からの通信をレーザーだけでまかなおうとする場合、その点が最大の課題です。 宇宙船サイキが小惑星帯への22億マイル(約36億km)の旅を続ける中、DSOCの技術チームは通信システムの実験を続け、レーザートランシーバーを週ごとにチェックしていきます。サイキが地球からより遠くに進むほど、レーザーの信号はよりかすかになっていきます。 今のところ、実験は記録を更新し続けています。今年7月にはDSOCは地球からサイキへ向けて、2.9億マイル(約4.6億km)の距離を超えてデータを送信しました。その距離は、地球と火星が軌道上でもっとも遠くに位置するときの距離に相当します。 NASAのSrinivasan氏は、レーザーを主な通信手段として使うミッションは今後10年以来にありうると予想していますが、そのためには光通信専用の望遠鏡建設の必要性があると言います。データを確実にやりとりするためには、地上側の設備は復数の選択肢を持つことが望ましいからです。 「それは、(無線と光通信)両方にとっての解決策になると考えています」とSrinivasan氏。 「レーザー通信に関しては、そのような施設は高精細動画やより豊富なサイエンスデータなどを受信するための高帯域のチャネルとなります。でもそれはつねに、無線周波数の通信の場所にもなるのです。」
福田ミホ