レイオフ断行でも憎まれないCEO、会計ソフト大手の危機に挑む
就任直後の新顔CEOが、あえて会社が経験したことのないレイオフを行う。社員に頭を下げることもいとわない彼女のやり方は、簡単なようで......。 スキンダー・シン・キャシディ(54)が、ニュージーランドに本社を置く会計ソフト大手Xero(ゼロ)の最高経営責任者(CEO)に就任することが発表されたのは、2022年11月の社員総会でのことだった。当時は世界中で、テクノロジー業界の大規模なレイオフが暗い影を落としていた。活況を呈していた同社の株価も、それまでの12カ月間で半値以下にまで落ち込み、従業員たちはクビを切られずに済むのかどうか、知りたがっていた。 その月の末にXeroに入社したシン・キャシディは、翌23年2月1日付けでCEOに就任した。就任前からレイオフ実施の可能性を予見していた彼女だったが、23年になるころには同社が経済的逆風のなかにあることは明白になっていた。そこで、ただちに本格的なレイオフに踏み切るのが最善の策だと、3月に開いた3回目の社員総会で、従業員の約15%に当たる700~800人を解雇すると発表した。 同年5月発表の23年3月期決算では事業収益は上向いたとはいえ、純損失は、前年の910万NZドルから1億1350万NZドル(6900万米ドル)へと拡大していた。買収したばかりのソフトウェア企業2社の減損処理と再編コストがたたったためだ。 「まず、社員に謝りました」と彼女は振り返る。 「『難しい状況をお伝えしなければなりません』と。泣いていたと思います。意図的ではありませんでしたが、それが私という人間なのです。一息ついて、心を落ち着ける必要がありました。そして、この日の主要なメッセージをすべて伝えました」 それは、Xeroの歴史で初めてのレイオフだった。 「いちばん驚いたのは、その日のうちに私のことを案じるメッセージがいくつも届いたことでした」 シン・キャシディは、味方になってくれる人がいてくれることを確信したのだった。 Xeroは06年に連続ハイテク起業家のロッド・ドラリーと会計士のハミッシュ・エドワーズが創業した。ともにニュージーランド人のふたりは、ドラリーを最高経営責任者として、小規模事業を対象に日々の単調な会計業務の効率化を図る事業を立ち上げた。クライアント企業とその経理担当者が給与や支払いといった日々の作業からワークフロー、コンプライアンスまでをクラウド・ベースのプラットフォーム上で管理できるようにしたのだ。 Xeroは07年にニュージーランド証券取引所(NZX)、12年にはオーストラリア証券取引所(ASX)で上場を果たした。ただし、NZXでの上場は18年に廃止。ドラリーは同年CEOの座を退いた。「Human(人間)」をコアバリューに掲げるという大胆な感性とインクルージョンのメッセージが功を奏し、同社はASXで上位銘柄入りをし、今年6月半ばには時価総額204億豪ドル(135億米ドル)に達した。24年3月期の売り上げは22%増の17億NZドル、純利益は1億7460万NZドルを記録。黒字転換に伴って年始から株価は勢いを取り戻し、21年の最高値に迫る1株130豪ドル超にまで上げている。再編に加え、価格を引き上げ、顧客層開拓のために新たなパートナーシップも結んだ。