「たのむから本屋やめんといて」町の小さな書店は減り続けるのに、なぜこの店は賑わう? 他県からの客も 「心に寄り添う一冊」を薦める店主の思い
出版文化産業振興財団が昨年12月に公表した調査では、全国1741市区町村のうち26・2%に当たる456市町村に書店がないことが判明。人口減少による経営難や活字離れなどが背景にあるという。 加えて、小規模書店の経営に影を落とすのが、「ランク配本」という制度だ。出版社と書店の間に入って本の流通を担う「取次」会社が、書店を規模や売り上げに応じてランク付けし、新刊本や話題書の配送部数を割り当てる仕組みで、大規模店が優先される。このため隆祥館書店は、良いと思った本を積極的に仕入れて販売記録を作り、出版社との信頼関係を築いて確実な納入につなげてきた。 例えば、2015年に刊行された北康利著「佐治敬三と開高健 最強のふたり」は、発売から約3週間で70部を売った。これは大規模店も含め全国最多の販売数。小規模店としては驚異的な記録だった。 しかし、2年後にこの本が文庫化された際、隆祥館書店には1冊も配本されなかった。売りたくても本がない。二村さんは出版社に直接掛け合って本を仕入れ、客に届けた。
「各書店でどんな本を売り上げたかという実績に応じて配本されないと、書店の個性もなくなる」。二村さんはランク配本制度に憤る。 ▽町の本屋の未来 さまざまな制約があり、もうけも少ない書店経営だが、二村さんの背中を追う存在も現れた。4年前から書店員として働く高原康平さん(30)だ。本好きが転じて働き始めたが、客と和やかに言葉を交わす二村さんを見て「町の本屋」に魅了された。帰宅後には客が購入した本のタイトルやその日の会話で得た情報を、つぶさにスマートフォンに記録する。 「次に来店したときに本の感想を言い合ったり、僕も本を薦めることができたりと、客との距離の近さが町の本屋の強み。二村さんと僕の好みは当然違っていて、だからこそ僕に選べる作品もある。僕もいつか店を構えたい」 活字離れやコロナ禍における注文の減少など、二村さんはこれまで、たくさんの困難を乗り越えてきた。 「もう本屋は厳しいのかもしれないと何度も落ち込んだ。でもそのたびに来てくれるお客さんの顔が浮かんで、まだ頑張れる、もっと一人一人と深くお付き合いしようと続けてきた」
その思いの原点には、自らの人生に寄り添ってくれた本への熱い思いがある。「本は子どもも大人も関係なく救ってくれる。『本屋、頼むからやめんといてほしい』と言ってもらえるよう、やれることは全部やる」。本を読み終える頃、その心が解きほぐれることを願って。