「たのむから本屋やめんといて」町の小さな書店は減り続けるのに、なぜこの店は賑わう? 他県からの客も 「心に寄り添う一冊」を薦める店主の思い
意外だったのは、藤岡陽子さんの小説「おしょりん」が入っていたことだ。二村さんはその意図をこう説明した。 「起業の話だからビジネスマンにも合うし、人の心が繊細に描写される小説からこそ、得られるものがある」 客が普段読まないジャンルの本を、あえて薦めることもあるという。「視界に入らない本の中にも、悩みを解決するヒントがあるかもしれない。話を聞いているうちに、だんだんと薦めたい本が頭に浮かんでくる」 ▽隆祥館書店の歩み 店は二村さんの父の善明さんが1949年に起こした。小説や詩集、絵本やエッセーなど多様な本を取り扱い、1日に400人が来店した時代もあった。しかし、Amazonや電子書籍が台頭すると、みるみるうちに減少。 「今では1日40~50人ぐらい。本の配達も、コロナ禍があったため病院や美容室からの注文を取ることが難しくなった。それでも、多いときで50カ所以上に、遠くは30分近くかけてスタッフが届けてくれている」
父の跡を継いだ二村さんには、変わった経歴がある。シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)の日本代表選手で、コーチも務めた。書店に入ったのは1995年だ。 「選書」に力を入れ始めたきっかけは、ある客にお薦めを聞かれ、紹介した本を読んでもらった経験から。以後は多様なジャンルを読み込み、客の選書の傾向や悩みに寄り添った提案をするように。「何度も来てくれる客の顔と好みは、自然と頭に残っている」。メモは取らない。 ▽1万円選書 新型コロナウイルス禍は書店にとっても〝氷河期〟だったが、二村さんが選書の腕を振るった時期でもある。2020年に始めたのが「1万円選書」だ。きっかけは、遠方の常連が来店しづらくなり「良い本を送って」と頼まれたこと。募集を呼びかけると、500件近くもの応募が殺到した。 「本の需要がなくなっているのではと不安だったので、うれしさに涙が止まらなかった」