「たのむから本屋やめんといて」町の小さな書店は減り続けるのに、なぜこの店は賑わう? 他県からの客も 「心に寄り添う一冊」を薦める店主の思い
客の好みに加え、興味関心や抱えている問題を聞き取り、処方箋のように本を選ぶ。 人間関係に悩む相手には、草薙龍瞬「反応しない練習」や田村耕太郎「頭に来てもアホとは戦うな!」を届けた。「本だけでなく、思いも一緒に届ける。一冊でも心に寄り添う作品があれば」 ▽本に救われる 二村さんには過去、心の平安を失った時期がある。パニック障害を発症し、地下鉄に乗ることも難しくなった。ふさぎ込んでいた頃、支えになったのが一冊の本。星野富弘さんの「愛、深き淵より。」だ。事故で手足を動かせなくなった著者は、口に筆をくわえて絵や詩を描いた。 「私の人生を振り返ると、しんどいときには必ず本との出会いがあった。そういう経験があるからこそ、思い悩む人に寄り添って提案できる」 ▽集いで生まれるにぎわい 隆祥館書店の特徴は、選書だけではない。 「作家と会ってみたい」という客の声に端を発し、2011年にスタートさせたのが、トークイベント「作家と読者の集い」。月2~3回の頻度で開催し、既に300回を超えた。今では多くの著者が「隆祥館書店に呼ばれてみたい」と希望するという。
2016年からは、本と“小さなお客さま”との出会いの場「ママと赤ちゃんのための集い場」も開く。二村さんの長女で臨床心理士の宝上真弓さん(40)が、子どもの月齢や季節に合わせて選んだ絵本を読み聞かせる。真弓さんの出産後、赤ちゃん連れを断る飲食店の多さに驚いた二村さんが、「親子の居場所づくりに」と、月に一度実施している。 今年10月中旬も、書店が入るビルの8階で開かれた。ハロウィーンを扱った作品など6冊を読み聞かせた。参加した1歳の女の子は、体を揺らしたり絵本の仕掛けに手を伸ばしたりと、全身で楽しんだ。 その様子を笑顔で見ていた母親(41)は満足そう。「絵本もたくさんあってどれを選べば良いか難しいが、ここなら反応を見て買ってあげられる。子育てに役立つ本も薦めてもらえて、育児で感じる孤独も紛らわすことができ、ありがたい」 ▽大規模店をしのぐ売り上げ 書店は現在、どれくらい減っているのだろうか。日本出版インフラセンターによると、2022年度の全国の書店数は1万1495店。10年間で約3割減少した。