自民党総裁選での経済政策論争②:貯蓄から投資へ
金融所得課税を巡る議論
総裁選挙戦で「貯蓄から投資へ」の議論が最も高まったのは、告示前に「金融所得課税」に議論が及んだ時だった。自民党総裁選への立候補を表明した石破氏が9月2日のBS日テレの番組で、金融所得課税の強化について「実行したい」と話したのがきっかけだった。 すかさず反論したのは小林氏と小泉氏だ。両氏ともに、金融所得課税の強化は、NISA拡充など政府が進めてきた「貯蓄から投資へ」の流れに逆行すると指摘した。そのうえで小林氏は、「中間層に金融所得増の恩恵が届く施策を進めていくべきだ」と主張した。小泉氏も「貯蓄から投資へと、長年なかなか回らなかった歯車が動き出した。この流れに水を差すような金融所得課税を議論するタイミングではない」と述べた。 石破氏は「新NISA、iDeCo(イデコ=個人型確定拠出年金)への課税強化は毛頭考えていない」と後に説明を加えたことで、この議論は次第に沈静化していった。
成長戦略の推進と一体で進めていくことが重要
ただし、各候補ともに岸田政権の「資産運用立国」、「貯蓄から投資へ」に賛成であるならば、それらをどのように発展、展開させて、所得と成長の好循環につなげていくのか、もっと具体策に踏み込んで議論を深めて欲しい。 一時的な新NISAブームで終わるのではなく、個人が投資を持続的に拡大させていくためには、日本経済の成長力向上への期待を高める必要がある。金融商品への投資の期待収益は、経済の成長力、潜在力によって基本的には決まると考えられるからだ。経済の成長力、潜在力が高まり、投資の期待収益が高まれば、個人のリスク選好も高まり、株式投資が促されるだろう。 こうした観点から、個人の投資拡大を起点とする「成長と分配の好循環」の実現には、少子化対策、インバウンド戦略、DX・GX戦略、地方経済活性化、外国人人材活用などといった、経済の成長力を向上させる成長戦略の推進と一体で進めていくことが重要になるだろう。 新政権には、このような幅広い成長戦略の取り組みと合わせて、岸田政権の「貯蓄から投資へ」の政策をさらに発展させていって欲しい。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英