民主党が勝つのは「共和党がコケた時だけ」 南北戦争から続いた、大統領選のジンクス
1920年代の「狂騒の20年代」と呼ばれる繁栄期、共和党政権は絶頂期を迎えた。しかし、その裏では政治腐敗が蔓延し、世界大恐慌という未曾有の危機も到来...。繁栄と崩壊が表裏一体であることを示す、痛烈な歴史について、書籍『教養としてのアメリカ大統領選挙』から解説する。 【書影】アメリカ大領領選挙にはどんな特徴がある? カリスマ世界史講師が示す「11月の大統領選挙」の読み解き方 ※本稿は、神野正史著『教養としてのアメリカ大統領選挙』(秀和システム)から一部を抜粋・編集したものです。
共和党政権の絶頂と腐敗
「政治経済に国民生活が困窮するほどの大きな問題がない限り、あるいは共和党がよほどの大ポカをやらかさない限り、共和党政権は安泰」だという原則(※1)を思い出していただければ、この「経済が上向き、文化が華やぎ、生活が豊かになった狂騒の20年代」はずっと共和党政権が安泰の時代になる ── ということが容易に推測できます。 それは現実となり、ウォレン・ガメイリアル・ハーディング、ジョン・カルヴィン・クーリッジ、ハーバート・クラーク・フーヴァーの3代「3期12年」にわたって共和党政権がつづくことになりました。 しかし、「世の中がうまく回っている」ということは、逆の見方をすれば「政治家は特にやることはない」ということです。 特に当時は、資本主義が絶頂を迎えていたことで「アダム・スミスの経済学説(古典派経済学)の正しさが証明された」と信じられ、政府は"小さな政府"を理想として経済に介入するべきではなく(※2)、むしろヘタに政府経済を引っ掻き回せばロクな結果にならないと考えました。 アメリカ合衆国に限らず、洋の東西と古今を問わず、国が安定しているときの国家元首は「無能」になりやすい。(※3) 外交面では、ハーディング・クーリッジ・フーヴァーと3代がそれぞれ「ワシントン会議」「ジュネーヴ会議」「ロンドン会議」を主催してアメリカ合衆国の覇権国家たる地位を築こうと一定の努力をしていますが、こと内政に関してはほとんど無策で、アメリカ合衆国史上絶頂期にあたる「狂騒の20年代」の大統領が3人が3人とも「無能」の烙印を押される大統領だったのも、"たまたま"ではなく"歴史の必然"だったといえましょう。 無能・無策な大統領がつづいても繁栄がつづくとなれば、そこに「政治腐敗」が起こらないわけがありません。(※4) こたびもご多分に漏れず、贈収賄・横領・職権濫用など「共和党」の政治腐敗は進んで、徐々に統治能力を失っていく中で"破滅"の跫音が近づいてきます。 それこそが「世界大恐慌」。 そもそも資本主義が「かならず好景気と不景気を繰り返す」「恒久的に好景気がつづくことはシステム上あり得ない」などということは中学社会で習うこと。 資本主義はいわば「ゼロサムゲーム(※5)」、好景気が大きいほど長いほど、かならず次に深刻な不景気が襲いかかることは避けられないのに、好景気がつづくとかならず「我が国は破綻は起きない!」「今回は条件が違う!」「この好景気はいつまでもつづく!」などと世迷言をいう似非経済学者がまたぞろ現れて国の行く末を誤らせます。(※6) このときもそうでした。大統領は無能無策、お抱えの経済学者は"進軍ラッパ"を鳴らしつづける。共和党政権下での"破綻"は起こるべくして起こったといえましょう。 [注釈] (※1)南北戦争以降「民主党」が政権を獲るのは「共和党」が自滅したときか、国民から見放されたときくらいで、原則として共和党政権がつづくことになる。 (※2)これを「レッセフェール(自由放任主義)」といいます。 (※3)誰が国家元首を務めようが国が安定しているなら、家臣団としては無能元首の方が御しやすくて都合がよいためです。 (※4)繁栄と腐敗は表裏一体、歴史を紐解けば、「長期政権」「繁栄」の中に腐敗が生まれないという例はありません。 (※5)麻雀や花札のように、参加者の利益が他の参加者の損失で賄われるゲームのこと。この場合、長期的観点から資本主義経済を見たとき、好景気と不景気を足せばゼロになるという意味。 (※6)このときのアメリカだけではなく、こうした似非エコノミストはいつの時代にも現れます。たとえば、20世紀末の日本の「バブル景気」のときにも、21世紀初の中国の「不動産バブル」のときにも現れて、国を破滅に追い込んでいます。