「配信があって幸せだ」英国人記者は“異例の7大世界戦+那須川天心”をどう見た?「中谷、堤は見事だったが私の目を引いたのは…」
慎重なマッチメイクが必要かもしれない
その一方で、ディフェンスにはやや不安があり、アシロ戦でも被弾はありました。まだ26歳と若く、伸びしろは豊富に残っているでしょうから、ボクサーとして成熟するまでは慎重なマッチメイクが必要かもしれません。具体的には、もうしばらくは強打者との対戦は避けた方がいいでしょう。世界王者になれるかどうかは相手次第のところがありますが、順調に向上しているのは間違いなく、2026年くらいまでには世界レベルで戦う準備が整うのではないかと思います。 13、14日の興行では、前編で名前を挙げた中谷、堤、そして前述の那須川以外にも多くの選手が優れたパフォーマンスを見せてくれました。なかでも私の目を引いたのは寺地拳四朗の充実ぶりです。 寺地はWBC世界フライ級王座決定戦でクリストファー・ロサレスを下し、2階級制覇を果たしました。108パウンドのライトフライ級から112パウンドのフライ級に上げたことは、大きなメリットを生み出したのでしょう。たった4パウンドの違いでそこまで言うのはクレイジーに思うかもしれませんが、寺地は昇級によって“新しい命”を与えられたというのが私の意見です。
「フライ級4団体統一も不可能じゃない」
対戦相手のロサレスは元世界王者であり、現在もリングマガジンの階級ランキングでトップ10にランクされる実力者。寺地のフライ級初戦の相手としては適切でしたし、実際にいい試合になりました。 今回の寺地にはよりエネルギーが感じられ、前戦のカニサレス戦のように多くのパンチをもらうこともありませんでした。カニサレス戦後には正直、その健康状態が心配になったほどでしたが、ロサレス戦での寺地はほぼ完全に違うボクサーだったといっていいでしょう。試合中盤、ロサレスはサウスポーにスイッチし、寺地のリズムが狂わされかけた瞬間がありました。そこでもすぐに立て直し、総合力の高さを証明してみせたのです。 キャリアのこの時点での昇級は正解であり、WBC王者になった32歳の今後がまた楽しみになって来ました。11月下旬、サニー・エドワーズ対ガラル・ヤファイというWBC暫定タイトル戦が組まれていますが、どちらが上がって来ても寺地が上と見ます。WBA王者ユーリ阿久井政悟、WBO王者アンソニー・オラスクアガといった他の王者たちを含めても寺地が劣っているとは思えず、うまく統一戦が組めれば4団体統一に向かうことも不可能ではないでしょう。そうやって将来を楽しみにできる勝ち方をしてくれたことを、私も嬉しく思います。 興行の中で最も印象に残ったのは堤、寺地でしたが、他にも番狂わせがあり、激しいKOあり、素晴らしいパフォーマンスあり、と私もファンとして楽しませてもらいました。終わった翌日の朝に目覚めた際、「今日は日本の興行がないのか」と落胆するかもしれないと感じたくらいです(笑)。 この2日間、日本ボクシングは本当にヘルシー(健全)な状態だと改めて感じました。すべては多くのボクシング関係者の努力、尽力があればこそ。まだ日本のボクシングがスローダウンする気配は見られず、日本こそが軽量級の温床です。世界最高級のボクサーである井上尚弥、パウンド・フォー・パウンド(PFP)でもトップ10に入る力を持った中谷に加え、寺地もまたPFP11~15位に位置する実力者です。これほどのタレントを続々と生み出す日本ボクシングは現在、センセーショナルな時間を過ごしており、“7大世界戦+1”はその隆盛を象徴するようなイベントだったのでしょう。 こういった上質な興行が日本だけではなく、アメリカや私の住む英国でも見られるようになったのはラッキーであり、本当に幸せな時代だと改めて感じてもいます。 (前編から続く)
(「ボクシングPRESS」杉浦大介 = 文)
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