そのスタッドレスは雪用? 氷用?(後編)路面状況で変わる「ミゾ」の入れ方
多くの矛盾をどう解決しているか?
さて、前編からあちらを立てればこちらが立たずな状況を順に書いてきたわけだが、現実的にスタッドレスタイヤはどうなっているのだろうか? あくまでも一例だが、ヨコハマタイヤのアイスガード5ではタイヤのイン側とアウト側でパターンを変えている。アウト側はミゾ面積を多く取って雪路に備え、同時にドライ路面のためにブロックの剛性を高くしてある。対して、イン側ではミゾ面積を小さく取り、サイプの数を増やして氷上性能を高めている。 水たまり対策の縦ミゾは、一番接地圧の欲しいトレッド中央付近に排水力の高い太い主ミゾを配置し、左右にサブのミゾを置く。さらにその間に細いミゾという合わせて5本の縦ミゾが配置してある。特にメインとサブのミゾは太く真っ直ぐで排水性が高く取られていることが解る。 タイヤのショルダーは比較的角張っており、この形状が雪上で横方向へのエッジとして機能しグリップを助けている。 画像には便宜上「オールラウンド型スタッドレスタイヤ」という文字が入っているが、これがオールラウンドかというとそうでもありそうではない。全部にパーフェクトなタイヤなんて存在しない。だからオールラウンドという言葉が「万能スタッドレス」と言う意味ならそんなものはこの世に無い。そんなものがあったらラリー競技で路面ごとにタイヤを変える必要がない。 そうではなく、限られた条件の中で、1本のタイヤに求められる様々な路面での性能を一生懸命バランスさせて「どれも足りなくならない様に」盛り込んだもの。例えるならやりくり上手な賢い奥さんみたいな頑張り方だ。そういう意味でならドライバーの味方であり、オールラウンド・スタッドレスだと言える。どんな路面でも動けなくならない様に可能な限り頑張ってくれるのであって、節度のない無茶な運転まで何でも全部助けてくれる魔法のタイヤではないのだ。 現実的には、通常日本で売っているスタッドレスタイヤは、アイスバーンでの強さはそこそこに諦め、雪を重視したタイヤが多い。限られたリソースなので、割り振るとそういうことになる。日本の多くのエリアの路面状況がそういうタイヤを求めるからだ。 前編で説明したように、氷を重視すれば接地面積を稼ぐためにミゾが邪魔になる。氷に特化してミゾを減らすと雪やウェット路面に弱くなる。トレードオフ関係が成立しているのだ。現実の路面に雪と氷の両方がある以上、市販されている全てのスタッドレスにはどれかの性能をゼロに見切った極端なタイヤはない。 そういう意味では例外なくバランス型だが、そのバランスの中でそれぞれに「雪とウェット重視」「氷重視」のどちらにどの程度寄せるかの按分がメーカーや製品ごとに違う。雪でも氷でもウエットでもドライでも最悪の破綻をさせない様にしつつ、使用状況に応じて慎重にタイヤをデザインしているのだ。