そのスタッドレスは雪用? 氷用?(後編)路面状況で変わる「ミゾ」の入れ方
氷上に対応した特殊な「ミゾ」
例えば、北海道の一部など限られたエリアでは冬の間、根雪が完全にアスファルトを隠して、交差点の手前がことごとくアイスバーンになってしまう。こういう過酷な状況では、優等生的な全方面配慮のバランスでは氷上性能が足りなくなる。否応なく性能の按分を氷優先にする必要があるのだ。 ヨコハマでは『アイスガード エボリューション iG01』という北海道限定タイヤも発売している。トレッドは両側ショルダー部のみにわずかに雪用の横ミゾが入り、縦ミゾは太く真っ直ぐにしないでジグザグにして、排水用というよりはシャーベット対策のせん断抵抗増大を狙っている。抵抗を減らして最大効率で水をハケさせるのではなく、むしろミゾを通り抜け難くすることでグリップを稼ぐのだ。こんな特殊な縦ミゾは滅多にない。 センターセクションは接地面積を出来る限り大きくする氷上性能優先のデザインだ。注意深くみると中央の逆「ヘ」の字型のブロックに刻まれたサイプが中央だけ繋がって残っている。 グリップの事を考えれば、氷の凹凸への柔軟性と毛細管現象を追求して、ブロックにはサイプを出来る限り刻みたいところだ。しかしそうやって全部をしなやかにしてしまうとハンドリングが曖昧になり過ぎるので、もっとも接地圧が高くなる中央部だけ縦に繋げてリブ状に残すことでハンドリングの改善を狙ったものだ。 タイヤは筒状に見えて、実は風船みたいなもなのだ。踏面は必ず真ん中が一番盛り上がる。自然にそこは接地圧が高くなるので、中央のブロック剛性はハンドリングの初期応答性に大きな影響を与えるのだ。だからタイヤの中心に排水用縦ミゾがあるとハンドリングは曖昧になる。ただし中心のすぐ脇に縦ミゾを設けると中心部の排水が確実になってウェットでの初期応答が良くなる。 さらにタイヤの形状を細かくみると、この風船形状を利用して、サイドの横ミゾ部は少し路面から浮くように作られていて、氷上では原則的に接地しないようになっている。