東芝は超電導モーター開発…「水素航空機」実用化へ、研究開発が加速する
空の脱炭素化に貢献する水素航空機の実用化に向けた研究開発が国内外で進む。10月に東芝が欧州エアバスと組んで水素航空機向けの「超電導モーター」の開発を始めたほか、川崎重工業は航空機向けの小型エンジンで水素が100%の燃料による燃焼試験に成功した。国際民間航空機関(ICAO)が2050年のカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現を目指す中、達成に向けた切り札として注目される。(編集委員・小川淳) 【写真】川崎重工業の水素エンジン 「50年までの脱炭素化という野心的な目標を掲げている。(実現に向けた要素の)一つとなるのが、液体水素燃料をベースにした航空機の導入だ」。10月に来日したエアバスのグゼゴルツ・オムバッハシニアバイスプレジデントは、東芝と提携して水素航空機の開発を進める狙いについてこう語った。 エアバスでは35年ごろを目標に商用運航可能な水素航空機の導入を計画する。水素航空機は実現すれば二酸化炭素(CO2)排出量がゼロとなる画期的な機体だ。大量の燃料を消費する航空機業界にとっては、廃食油などを利用する持続可能な航空燃料(SAF)と並び、CN実現に向けて寄せられる期待は大きい。 一方で水素航空機は既存の航空機と比べてモーターが大型化し、容量や重量が大きくなることが導入に向けてのハードルの一つとなっていた。 東芝は以前から超電導モーターの開発を続けており、22年にはモビリティー用の2000キロワット級の試作品を開発した。電気抵抗がないため、大電流を流すことができ、発熱もない。同等出力のモーターと比べて10分の1以下の軽量・小型化となり、水素航空機の実用化に不可欠な主要部品となる可能性を秘める。竹内努執行役員は超電導モーターが実用化されれば航空機だけでなく「大型のモビリティー産業にも革命をもたらすことができる」とし、水素社会実現に向けて広く導入されることを期待する。
川重、小型エンジン試験成功
一方、川崎重工業は10月、航空機用の小型水素エンジンの運転試験に成功。水素だけを燃料とし、着火から回転上昇、定常運転、回転降下、停止までの一連の運転動作で安定したエンジン運転が可能なことを確認した。 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業として進めているもので、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の能代ロケット実験場(秋田県能代市)で実施。従来燃料用の小型航空エンジンに、新たに開発した水素用燃焼器などを搭載した。今回の成果と合わせて水素航空機の機体とエンジン関連のコア技術開発を進め、30年に地上での実証試験を計画する。 このほか日本航空(JAL)は23年11月に、水素を燃焼用ではなく、燃料電池として使用し、電動モーターで飛行する航空機を開発する米ゼロアビアなど米独のスタートアップ3社との提携を発表。安全性、経済性、整備性といった日本での安全基準を満たす水素航空機の設計開発を実現するため協業する。 大量にCO2を排出する航空業界をめぐっては「飛び恥」(フライトシェイム)という言葉が欧州で生まれるなどしており、脱炭素の取り組みの遅れは利用者の飛行機離れを促しかねない。水素航空機の実現に向けて解決する課題は技術面や経済性で多いものの、CN達成に向けた有効な手段として各国で取り組みが加速する可能性は高そうだ。