新生ラグビー日本代表、見せつけられた世界標準との差。「もう一度レベルアップするしかない」
簡単なものではないのが明らかだった80分間
ジョーンズはオールブラックス戦直前まで「新しく歴史を作る大きなチャンス。オールブラックスを追い詰める準備をしてきた」と宣言。計画通りに事が進めば歴史的勝利をつかめるとしてきた。 ただ実際にそうはならなかった。そもそも、陣営が白星獲得へ意気込んでいた段階から、この80分は簡単なものではないのが明らかだった。 イングランド代表、オーストラリア代表など各国を率いてきたジョーンズは、今年になって約9年ぶりに日本代表の指揮官に復職した。 折しもジャパンは、昨年のワールドカップ・フランス大会で2大会ぶりに予選敗退を味わったばかりだ。主力の高年齢化にも難儀していたとあり、ジョーンズは2027年のオーストラリア大会へ向けて大幅な若返りを断行せざるを得なかった。以後、オールブラックス戦前までのテストマッチ(代表戦)は3勝4敗と負け越していた。 加えてジョーンズはかねて組織の成熟には「3年はかかる」と述べている。つまり、大きな伸びしろを残しているとはいえ、新体制でスタートしたばかりの世界ランキング14位の日本が、世界ランク3位のワールドカップ優勝経験国にぶつかったのである。 しかも今度のビッグマッチに向けた準備は、10月中旬からのキャンプのみにとどまった。一時はオーストラリア代表予備軍とのウォームアップマッチがあるのではと噂されたが、この貴重な「予習」の場は作られなかった。 ジョーンズは「自分の就任前にスケジュールは確定していた。そんな可能性があることは知らなかった」と否定。他方、日本ラグビーフットボール協会の関係者は「ウォームアップマッチは現場の判断により行わないことにした」と口を揃える。 とにかく若き日本代表は、高い強度に慣れぬうちにこのハードなダンションに挑んだ。例えるなら、一度も過去問題を解かずに難関校の受験会場へ出かけたようなものだった。
明確になった世界トップとの差。矢崎由高の反省と決意
再三、タックルを仕掛けながらも弾かれていた一人は、矢崎由高。早稲田大学2年のフルバックである。 「単純なフィジカルの差もありましたが、ジャパンとしてももっと組織的にディフェンスをしないといけない。その課題が見つかったかなと感じます」 発展途上のタイミングにおけるビッグマッチの価値は、この厳しいレッスンそのものにあった。 矢崎にとってのタフなハイライトは、後半26分頃にあった。 右タッチライン際で快足を飛ばし、自陣中盤から敵陣ゴール前へ進むも、対するマッケンジーに行く手を阻まれた。 その時のスコアは12―50。勝負は傾いていた。いわばオールブラックスの戦士は、これほど大きく差をつけていても必死にトライを防ごうとしていたわけだ。 「いままでの彼のプレーを事前に見ていたので、どうラインブレイクしてくるかも考え、対処できた。追いついたのはラッキーでした。試合は80分しかないから、頑張ろうと思っていました」 マッケンジーがこう述懐するなか、矢崎は苦みを知った。 「あそこでどうすればよかったかはのちほど映像を見て考えようとは思いますが、やっぱり世界の壁は高かった。あそこで(得点を)取り切れないのが自分の現状なんだなと痛感したので。もう、これから前を向いて、もう一度レベルアップするしかない。次に同じ状況がきたら取り切れるようにならないと、ジャパンで生きる道はない……。そういう感想です」 ノーサイドの笛が鳴ると、矢崎はその場にうなだれた。周りに握手を求められるも、ひざをついたまま立ち上がれなかった。 「スコアボードを見て、世界との差を感じて……。自分としてもチームに与えられた影響が少なかった。その悔しさがいろいろと巡ってきたというか……」