ゴジラが“一線を越える”ってどういう意味なんでしょうねぇ。【みうらじゅんの映画チラシ放談】『ゴジラxコング 新たなる帝国』『ザ・タワー』
みうらじゅんさんの前に近々公開される映画のチラシを大量にお持ちして、グッとくるチラシを厳正にピックアップ。映画本編は観ていないので事前知識はほぼゼロ、頼りになるのはチラシ内の情報(と妄想)だけという状態で語っていただく、言いっぱなしの映画チラシ放談です。(ぴあアプリ「みうらじゅんの映画チラシ放談」より転載) 【全ての画像】『ゴジラxコング 新たなる帝国』『ザ・タワー』
『ゴジラxコング 新たなる帝国』
――今回の1枚目のチラシは、ハリウッド版ゴジラのシリーズ最新作『ゴジラxコング 新たなる帝国』です。 みうら このチラシにある構図は、小学生の頃、夢で見てたTV番組 “ローラーゲーム”に似てます(笑)。ダンプとか、ジュディ・ソーインスキーといった選手がね、腕をブンブン回しながらレーンを走るんですよ。ローラースケートのシューズが欲しくてねぇ、当時。ま、それはどうでもいいんですがね、今回(笑)。 このチラシには「一線を越える」ってキャッチコピーが書かれてあるでしょ。これはたぶん、怪獣ファンの常識から「一線を越える」っていう意味だと思うんですよね。 怪獣ファンからしたらそれは「超えてほしくない一線」かもしれません。日本のゴジラは『-1.0』で原点回帰なのに、ハリウッドは一線を越える。どうなんでしょう? 最初の頃は、それこそ、日本の怪獣映画が大好きで怪獣映画で育ってきたアメリカの監督が撮ってくれてるんだろうと当然思ってたし、一線は越えないだろうと安心してましたけど、このチラシを見て「やっぱり超えるんだな、アメリカ野郎は」って思っちゃいましたよ。もはや僕の好きな怪獣映画じゃないことは確かだと思うんです(笑)。確実に『三大怪獣 地球最大の決戦』ではない“ゴジラ”ですよ。 まあ、それですっかり従来のイメージが変わってもいいんですけどね。僕を含めた上京組はね、たまに田舎に帰省するとかつての友だちから「お前変わったな」って否定的な声をかけられることもありました。でもよく考えたら、変わりたくて上京したわけですから。ゴジラだってハリウッドに行ってきっとそう思ってるに違いありません。 ――ゴジラが「もう昔の俺じゃない」って言ってるってことですか? みうら 変わったことを認めるのがファンの務めじゃないか、と言っていると思います。それにしても今回、またゴジラ、ずいぶん顔が変わりましたね。 ま、日本でも、何度も変わってますけどね。『怪獣大戦争』では当時流行ってた『おそ松くん』のイヤミのシェーのポーズまでやってたくらいですから。 でも、当時、小学生だった僕はそういうふざけたゴジラをなかなか受け止めることができなくてねぇ。なにか釈然としないというか、どちらかと言うとイヤだった思い出です。ゴジラはゴジラでいてほしいって小学校のときから思ってたんでしょうね。 キングギドラやラドンもハリウッドに行って、なんならもう“ホームステイ”じゃなくて“ステイホーム”状態だと思うんです。 ――どういうことですか?(笑) みうら いや、もう日本に帰ってこないんじゃないかと心配でねぇ(笑)。 だから、たまにゴジラから「拝啓、日本のみなさまへ」っていう便りでもあればまだホッとするんですがね。でもこのチラシは「一線を越える、常識が変わる」とも書かれてるでしょ。これは何もゴジラが言ってるんではないと思うんですけどね……。 ――なんだか寂しい感じですね。 みうら いや、このチラシのカンジは東宝映画の『キングコング対ゴジラ』の匂いもするんですよね。そもそもキングコングがハリウッドですから。ゴジラがどんどんアメリカっぽくなるところを、今回コングが逆に「お前、田舎を忘れちゃ駄目だっぺ!」みたいなことを言うんじゃないでしょうか? 昔は熱海城をふたりでぶっ潰し、ヤンチャした仲ですからね。当然、ヤンキーのセンスは持ってます。関西で言うところの「ヤンキー」ですけどね、当時は。 ――確かに関西人の母親から「関東でいうツッパリのことだ」って教わりましたけど、ヤンキーって本来はアメリカ人ってことですもんね。 みうら 日本産とか、そういうことの一線を越える。世界のゴジラですよと言いたいのではないかと。 チラシでコングが大きく口開けてますけど、「もう、そんなことどーでも良くね?」と言ってるんじゃないのかなあ。 ――ゴジラも口を開けてますけども。 みうら 「だよなぁー!」って言ってるんだと思います(笑)。ハリウッド版の前作のタイトルが『ゴジラvsコング』でしょ。元々は『キングコング対ゴジラ』でしたからね。そこは、日本側がコングのことを立ててたんだと思うんです。 もう、今ではコンビ名ですよね。“ゴジコン”なんて、約(つづ)めて呼ぶんでしょ。でも、僕は観に行きますよ。怪獣ファンとして。たとえ次回作にジェットジャガーが登場したとしてもね(笑)。