こんなクルマよく売ったな!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】ハイトワゴンの時代に逆行し売れなかったが志は高かった[ダイハツソニカ]
■車内にゆとりを確保してちょっと遠くまでのドライブが快適
1470mmの全高は当時の軽自動車クラスではもっとも低いが、2440mmのロングホイールベースとエンジンルームのコンパクト化によって、室内長は1915mmという十分な寸法としていた。そのうえ1320mmという軽自動車クラスでトップレベルの室内幅としたことも相まって、室内はスタイリッシュなフォルムからは想像できないほどのゆとりが確保されていた。 室内は広いだけでなく、快適かつ爽快なドライブを実現するための工夫も随所に施されている。特に運転席は、走行中に生じる視覚的な疲労感を軽減するために前方への視点が遠方になるように設計。そのうえで前後に長いサイドウインドウは前端をなだらかに下がる形状とし、三角窓を採用することでフロントピラーの死角を減らしている。 さらにリアヘッドレストを使用しないときは低い位置に下げておくことができるため、後方視界もしっかり確保することができる。軽自動車はもともと運転がしやすいクルマだが、こうした工夫によって誰でもスマートに扱えて、爽快なドライブに大きく貢献する。 セダンタイプの軽自動車では、後席乗員のスペースが狭くなりがちだが、ソニカでは後席でもゆったり座れるよう860mmの前後カップルディスタンスを確保。そのうえでフロントシートバックを引き込み形状とすることで、足もとに十分なゆとりが実感できる。 さらに広い室内で心地よく過ごせるよう、前席には乗員が心地よく身をゆだね、足を前方にゆったりと伸ばして座れるツアラーベンチシートを装備。シートカラーは、引き締まった印象を与えるブラックと華やかなレッドの2タイプを設定した。
■爽快ツアラーの名に恥じないパフォーマンスを発揮
爽快なドライブを心ゆくまで楽しむために採用したメカニズムにも、ソニカのこだわりが見て取れる。 パワーユニットは、パワー&クリーンを走行性能と環境性能を高い次元で両立したターボエンジンと新開発CVTの組み合わせ。エンジンは低・中速域での豊かなトルクを発揮するKF-VEエンジンをターボ化した「KF-DET」が全車に搭載される。 ロングストロークやメカニカルロスの少なさによって、広いトルクレンジを確保したKF-VEエンジンの特徴を生かしながらターボをプラスすることで、発進直後から高速走行までパワフルかつスムーズな加速性能を発揮した。 このエンジンに組み合わされるトランスミッションは、インプットリダクション方式3軸ギアトレーン構造を世界で初めて採用した新開発のCVTだ。新たな機構が盛り込まれたCVTは、無段変速部の前段階であるプラネタリー部で減速を行い、ベルト回転速度を低減して極めて高い動力伝導効率と低速から高速までの全域で優れた加速性能を実現する。 KF-DETエンジンとのマッチングを徹底的に煮詰めることで、23.0km/L(10・15モード燃費)という、クラストップレベルの低燃費を実現。上級グレードには、マニュアル車感覚で7速のシフトチェンジが行えるアクティブシフトを採用し、ダイレクト感のある爽快な走りを楽しめた。 サスペンションはフロントがマクファーソンストラット式、リアは2WD車がトーションビーム式で、4WD車では3リンク式となる。前後のサスペンションはいずれも爽快ツアラーに相応しい走りを実現するべく、各所に専用チューニングを施したうえに、前後にスタビライザーを装着(4WD車はフロントのみ)してロール剛性の向上を図った。 サスペンションまわりに施した工夫だけでなく、低い全高による低重心ボディとロングホイールベースによってもたらされる優れた安定性の効果も手伝って、あらゆる場面でハイレベルな操縦性と快適な乗り心地を両立している。こうした特徴が、「爽快な走りで"ちょっと遠くまで"を快適にする」ソニカならではのセールスポイントとなっていた。 軽自動車といえば、日常の足として選ばれる傾向が強いクルマだが、ソニカはクルマ本来の魅力である「走り」にこだわって、新たな技術やメカニズムを数多く搭載。それらが功を奏して「爽快ツアラー」の名に恥じないパフォーマンスを有して新たな市場開拓を狙った。 しかし、すでにクラスの主流がハイトワゴンとなっていたことから販売は振るわず、1世代で歴史に幕を閉じてしまう。しかし軽自動車クラスで確たる人気は得られなかったものの、無駄のないボディに狙った性能や機能を凝縮させるという、ダイハツのクルマづくりにおける伝統はしっかりと息づいている。