米Box、企業内業務ファイルの活用を促す「Box AI Studio」など、生成AIソリューションの拡張を発表
エンタープライズ専業のクラウドストレージ事業者「Box」は、11月12日(現地時間、日本時間11月13日)に米国サンフランシスコ市の会場(Pier 27)において、同社の年次イベント「BoxWorks 2024」を開催し、同社の生成AIサービスをノーコードでカスタマイズが可能な新ツール「Box AI Studio」、新しい最上位の料金プラン「エンタープライズアドバンスド」などを発表した。 【画像】Boxの直近のスローガンとなるICM(Intelligent Contents Management、インテリジェントコンテンツ管理)を説明するBox 共同創業者 兼 CEOアーロン・レヴィ氏 BoxはエンタープライズやSMBなどの法人向けに特化したクラウドストレージサービスを展開しており、2023年5月に発表したBoxの生成AI基盤「Box AI」を活用した、企業内非構造化データ(Word/Excel/PowerPoint/PDF/画像など、同社はコンテンツと呼んでいる)を、AIの活用により効率よく活用するICM(Intelligent Contents Management:インテリジェントコンテンツ管理)を訴求している。 今回のBoxWorksでも、Box AIを利用したコンテンツ活用に関する発表が行われた。 ■ Boxのミッションは「企業が自社のファイルを活用して、ビジネスの効率性を高めること」とレヴィCEO Boxは、いわゆるクラウドストレージ事業者の中でも非常にユニークなポジションにある。というのも、一般的なクラウドストレージは、まず一般消費者向けから始まり、それがエンタープライズグレードへと進化していった歴史があるからだ。 クラウドストレージというと、Microsoft OneDrive、Google Drive、Dropbox、Apple iCloudなどが知られているが、いずれも一般消費者向けとエンタープライズ向けの両方が提供されている。それに対してBoxはエンタープライズ向けからスタートしており、エンタープライズや最近ではSMBなどをターゲットにした、いずれもビジネス向けのクラウドストレージとしてサービスが提供してきた。 このためBoxのクラウドストレージは、エンタープライズに向けたさまざまなアクセス制御やセキュリティ機能が備わっている。例えばセキュリティ機能では、PDFファイルを共有する際に、アカウント名をコンテンツの上に透かしとして入れることが可能で、情報漏えいを防ぐさまざまな機能が備わっている。ほかにも、社内での書類の承認フロー、外部の関係者との秘密保持契約書作成から署名までのフローなど、さまざまな機能が提供されており、それを企業のビジネスワークフローに組み込んでもらうことで高い生産性を実現する、そうした考え方でビジネスを展開している。 BoxWorksの基調講演に登壇したBox 共同創業者 兼 CEOアーロン・レヴィ氏は「Fortune 500企業のうち67%が、そして11万5000の企業がBoxを利用している。われわれのミッションはエンタープライズのワークフローをより簡単にしていくことだ」と述べ、Boxがエンタープライズを中心とした企業に評価されており、エンタープライズのワークフロー(仕事の進め方)をよりシンプルにしていくことで、企業の生産性を上げていくことがBoxのビジネスだと強調した。 そうしたBoxがターゲットにしているのは、同社がコンテンツと呼んでいる非構造化データだ。簡単に言えば、Word、Excel、PowerPoint、PDF、図面、画像、動画――といった、ビジネスパーソンが取り扱っているさまざまな形式のデータだ。 レヴィ氏は「エンタープライズのデータのうち、10%はデータベース、ERP、CRMのような構造化されたデータだ。しかし、残りの90%は構造化されていないコンテンツであり、それを活用していくことがエンタープライズの生産性を上げていく上で重要だ」と述べ、Boxはそれを実現していくために、生成AIを活用して、非構造データであるコンテンツが持つデータを構造的に利用できるように取り組んでいると強調した。 なおBoxでは、そうした取り組みをICMと呼んでいることも紹介し、ICMを活用していくことで高度なコンテンツ管理を行えるとアピールしている。 ■ Box AIアプリをノーコードで生成できるBox AI Studioを発表 Boxが2023年5月に発表した生成AIソリューション「Box AI」では、Boxのクラウドストレージ上に保存されているコンテンツを利用して、さまざまな業務フローの拡張が簡単にできる。Microsoft Azure OpenAI Service、AWS Amazon BedrockやClaude、Google Cloud Vertex AIなど、最先端のLLM(大規模言語モデル)と統合したサービスを走らせることができるほか、Box AIが提供する「Box AI for Documents」(文書の要約、要点整理)、「Box AI for Notes」(Box Notes上で、アイデア出しや文面作成)、「Box AI for Hubs」(コンテンツのポータル機能)などがすでに活用可能だ。 また、Box Shieldと呼ばれるBox AI向けのセキュリティ機能も用意されており、Box AIと合わせて利用することで、意図しないデータの流出や権限のないユーザーがデータにアクセスできてしまうことなどを防げるという。 なおBox AIは、複数あるBoxの料金プラン(ビジネス、ビジネスプラス、エンタープライズ、エンタープライズプラス)のうち、エンタープライズプラス以上のプランで、標準機能として提供されている(ほかのプランでは有料のオプションを選択する必要がある)。 今回Boxは、そうしたBox AIの拡張を発表した。発表されたのは「Box AI Studio」と呼ばれる、自社が必要とする機能に合わせてノーコードでBox AIをカスタマイズできる機能。デモでは、Boxのパートナーが提供しているモデル一覧の中から、最適なAIモデルを選択して、カスタムプロンプトとパラメータを微調整するだけで、顧客のワークフローに最適なAIエージェントを構築可能になる様子が紹介された。 ■ Box Apps、Box Forms、Box Doc Genなど企業のワークフローの生産性を向上させるツールが発表される Box Appsでは、Boxを利用して、企業のワークフローを自動化するアプリケーションをノーコードで作成できる。例えば、文書にサインしてもらい、それを承認するといったワークフローがすでにある場合、Box Appsを利用することで、そのワークフローを自動的に実行するアプリケーションを作成できる。 また、Box FormsとBox Doc Genという2つの新機能を追加したことも明らかにされた。Box Formは、Webやモバイル機器向けにフォームの作成と公開を簡単に行えるもの。一方のBox Doc Genでは、そのフォームやアプリ、そしてBox AIにより生成されたMetaデータなどからデータを抽出し、自動的にカスタム文章を作成し、Boxに保存できる。Box FormやGoogle Doc Genは、すでに提供されているBox Relay、Box Sign、さらには今回発表されたBox Appsと組み合わせることで、自社のワークフローでカスタマイズして利用することが可能になる。 こうした新しいソリューションにより、紙ベースの承認システムを廃止してすべてデジタル化することが可能になるが、そうしたことを計画している企業は少なくないと、Boxでは説明している。Box Apps、Box Forms、Box Doc Genは、本日よりベータ提供が開始される計画だ。 ■ ランサムウェア対策を支援するBox Archive/Content Recoveryや、最上位有料プランのエンタープライズアドバンスドが発表 このほかにもBoxは、増え続けるランサムウェアの脅威対策として、「Box Archive」と「Box Content Recovery」の、2つのソリューションを発表した。 Box Archiveは、企業がアクセス権を所有するアーカイブを作成できるツール。作成されたアーカイブは、ユーザーからはアクセスできなくなることが特徴で、このため、ユーザーのPCなどがランサムウェアの攻撃を受けたとしても、アーカイブに保存されているデータを改変することはできなくなる。また、仮にそのコンテンツを作成した従業員が退職した後、そのファイルが必要になった場合などに、アーカイブから該当するファイルを復旧することで、ファイルが失われることを防げるとした。 Box Content Recoveryでは、企業の管理者が専用のポータルサイトからファイルの復旧を容易に行え、仮にランサムウェア攻撃を受けた場合でも、数時間もあれば復旧することが可能になるという。また、すべてのファイルを元通りに戻す方法だけでなく、フォルダー単位で戻すなど、リカバリのやり方も細かく指定できる。なお、Box Archiveは2025年1月からベータ提供が開始される予定。Box Content Recoveryに関しては、提供時期は特に明らかにされていない。 またBoxは、これまでのSMB向けのビジネス/ビジネスプラス、エンタープライズ向けのエンタープライズ/エンタープライズプラスの4つの有料プランに加えて、エンタープライズ向けの最上位となる「エンタープライズアドバンスド」を発表した。Boxによれば、エンタープライズアドバンスドでは、下位のプランでサポートされる機能に加えて、以下の機能が料金に含まれるという。 ・Box AI Studio ・Box Apps ・Box Forms ・Box Doc Gen ・Box Archive ・500 GB ファイルのアップロード ・開発者向けツールの機能強化とAPI 割り当て上限の引き上げ なお新プランとなるエンタープライズアドバンスドは、今後数カ月の間に一般提供が開始される計画だとBoxは説明した。 ■ AIは日々進化している途中で、これまで考えなかったような手法で進化は加速していると、AnthropicのアモデイCEO BoxWorksの基調講演最終パートには、米国の生成AIモデルを開発しているスタートアップ企業「Anthropic」(アンソロピック)の共同創始者兼CEO、ダリオ・アモデイ氏が登壇し、Box CEOのレヴィ氏と対談を行った。 Anthropicは、2021年にOpenAIを退社したメンバーで設立された生成AIモデルを開発するスタートアップで、「Claude」という名称で、ChatGPT対抗のAIチャットボットを開発・提供している。現在は最新のClaude 3.5を提供開始するなど、OpenAIに対抗できるAIモデルやAIチャットボットを提供できるスタートアップとして、米国では急速に注目度を高めている。 Boxのレヴィ氏は「AGI(汎用人工知能)はいつ実現すると思うか?」という、米国のAI界隈での議論では必ず出される質問をアモデイ氏にぶつけると、「それは私にもわからない。そもそもAGIという言葉が適切かどうかに関して、自分はいつも疑問を呈している。例えば、この議論はムーアの法則の進化途上で、“いつになったらスーパーコンピューターは使えるのか?”と質問するのと同じことだからだ」と述べ、AIの専門家にとって、AGIはいつ実現するのかという議論には意味がないと指摘した。 その上で、生成AIにとって重要な目標は何かと聞かれると「それは生成AIモデルがプロフェッショナルに匹敵するような確実な仕事ができるようになる時だと思う。一度生成AIモデルに何かをお願いしたら、プロが処理したのと同じような成果を出してくれるようになることが、生成AIがあるレベルに達したと言える時だと思う」と述べ、生成AIにとっての1つの到達点はそこにあると指摘した。 その上で、生成AIは日々進化を続けており、例えば生成AIがデータを生成し、その生成されたデータを活用して学習が行われていることなどを指摘し、今後多くの人が考えている以上に、生成AIが急速に発展していく可能性があることなどを説明した。 なお、今回発表されたBox AI Studioでは、AnthropicのAIモデルを選択できるようになっている。両CEOは、そうした提携を今後も続けていくことを確認して対談を終えた。
クラウド Watch,笠原 一輝