青森・八戸市の5歳虐待死から1年 背景に若年妊娠、孤独… 専門家「福祉行政支援手厚く」
青森県八戸市の自宅で、女児=当時(5)=が虐待を受け死亡した事件は、7日で発生から1年を迎えた。保護責任者遺棄致死罪に問われた母親(22)を懲役9年とした青森地裁判決は、2024年12月18日に確定。公判では、若年妊娠や虐待の連鎖、社会的孤立などの事件背景が浮かび上がった。悲劇を繰り返さないために、専門家は「児童相談所が強制的に介入する手前で、福祉行政が家族を手厚く支援することが必要。家族を孤立させないことが何よりも大切だ」と訴える。 母親(22)は、小学生の頃に両親が離婚。引き取られた父からは暴力や暴言といった虐待を受けて育った。16歳だった18年に結婚し、女児を出産。高校を中退した。第2子の長男を産んだ直後の22年10月に元夫と離婚した。その後、子2人と千葉県にいる母と姉の元に身を寄せたが、女児への暴力やネグレクトをとがめる母らに、次第に不満を募らせていった。 23年6月、母らに無断で子2人を連れて家出。インターネットで出会った交際相手の被告(32)=同罪で起訴=とともに八戸市で生活を始め、事件を起こした。 弘前大学大学院教育学研究科の吉田美穂教授(教育社会学)は、事件の背景の一つに若年妊娠を挙げる。「若年妊娠の母親は、本人やパートナーが未熟なことも少なくない。離婚割合は極めて高く、働いた経験も高卒資格もないシングルマザーが誕生することになる」と問題を指摘。さらに母親(22)のように虐待家庭で育った場合、親としての適切なロールモデルを持っていなかったり、子育てを親に頼れないケースが多く「社会的支援は不可欠」と強調する。 吉田氏は高校教諭時代、虐待家庭で育ち、若年妊娠した女子生徒の担任を務めた経験を持つ。当時は、女子生徒の出産後の学校復帰を目指し、出産前から学校側が優先的に保育園に預けられるように行政に働きかけたり、女子生徒を行政の支援窓口につなげたという。実際に女子生徒は出産後に経済的に困窮し、学校が紹介した行政窓口を利用したこともあった。「学校側は妊娠したら中退するという旧来型の対応ではなく、生徒の将来を考え、福祉行政と連携するなどの対応を取るべき」と話した。 また今回の事件では、母親(22)が、虐待通告を受けた児相や警察の介入を拒んでいた。吉田氏は「児相と保護者は対立関係になりやすい」と説明。保護者が児相職員に悩みを打ち明けられない場合もあるため、妊産婦らの育児相談に応じる「子育て世代包括支援センター」などの機関が、虐待リスクの高い家族の相談に乗ったり、手厚い支援を行い、予防的役割を担うべきだという。 一方、地域全体で子どもや若い母親を見守る意識も重要だとし、「私たち一人一人が虐待が生まれる社会的背景を知り、虐待する親を孤立させないために何ができるのか、考えなければならない」と提言した。