放課後、子どもの元気な声 ママ友ひと休み 福島・会津若松の私設図書館開館2年
放課後になると、家にランドセルを置いた子どもたちが一目散に駆け付ける場所がある。自宅の一部を開放して絵本を貸し出す福島県会津若松市の私設図書館「絵本文庫 やまぼうし」。開館から2年が経過し、近所の子どもや大人が集まる憩いの場になっている。オーナーの山口元子さん(64)は「絵本が好きで、サロンのような場を求めている人たちの居場所になっていればうれしい」と話す。 「久しぶりー」「一緒に交ざって遊ぼう」ー。絵本に囲まれた空間に子どもたちの明るい声が響く。お気に入りの一冊を見つけて読む、お絵描きやトランプで遊ぶ、育休中の“ママ友”同士が一息をつく。訪れる目的はそれぞれで、ここで出会った利用者たちが自由なひとときを過ごす。そんな雰囲気が「自然で良い」と山口さんは目を細める。 県立高校で司書経験があるやまぼうしのスタッフによると、自宅を開放する文庫は昭和の時代には全国的にも珍しくなかった。会津にも40カ所以上あったとされるが、時代の流れとともに姿を消しつつある。 やまぼうしの始まりは2003年。中学校の国語教師だった前川圭子さんが定年退職を機に自宅に文庫を開き、長年の夢をかなえた。多くの人が集まれるようにと市中心部に家を建て、買いためていた絵本を置いて20年間、地域の憩いの場を提供した。 山口さんは利用者の一人だった。当時、小学校の支援員として児童に読ませる絵本を借りに訪れていた。絵本が好きで、前川さんと同じように、文庫を開くことが夢だった山口さんにとっても、憧れの空間だった。 「80歳になったらやめるのよ」。20年ごろ、前川さんは節目の年に文庫を閉めると山口さんに打ち明けた。本の行き先は決まっていなかった。「誰かにあげてしまうなら」と山口さんが後継者として手を挙げた。
22年秋、山口さんは自宅にある車2台分の車庫を改装した。23年3月に前川さんが文庫を閉めると約6千冊の絵本を移動させ、同年5月に第2のやまぼうしをスタートさせた。 冊数上限、返却期限はない。好きなだけ借りて、読み終わった時が返し時。この決まりは前身のやまぼうしから続いている。「忙しく子育てをしていた時、返却日に慌てて図書館に返していた時代を経験したからね。緩いのがいい」という山口さんの思いもある。飲食も可能でボランティアスタッフ9人が運営を支えているほか、月に10冊ほど新刊をそろえる。 未就学児を連れた保護者の利用も多いが、絵本好きの大人も集まる。「絵本は何歳になっても楽しめる」と山口さん。「ここを拠点に、さらに高齢者から子どもまで集まるような場にしたい。80歳までずっと開けていたい」と優しいまなざしでいとおしそうに文庫を見つめた。(安達加琳) 【絵本文庫 やまぼうし】 ▽住所=会津若松市東千石2の2の15 ▽開館日=水曜日午後1時半~同4時半、土曜日午前9時~正午 ▽問い合わせ=山口さん(電話080・1832・6700)
福島民友新聞