安達祐実の温度差がヤバい…地獄みたいな状況なのに笑える理由とは? ドラマ『3000万』第6話考察レビュー
負のループから抜け出す勇気がない祐子と義光
今は祐子たち家族だけではなく、日本全体が先の見えない時代に突入している。給料は一向に上がらず、物価や税金ばかりが高くなって生活は楽にならない。 子供は贅沢品と言われ、共働きでどうにか頑張っている世帯も多いが、年金だけでは足りない老後の資金も貯めねばならず、金銭面で親に頼れない子も多いと聞く。 祐子と同じように一日中、お金のことを心配している人も多いだろう。そんな中で、真っ当に生きるのはもはや至難の業だ。 今、世間を賑わせている闇バイトだって、小遣い稼ぎのつもりで安易に始めた人もいるだろうが、中には藁にもすがるような気持ちで手を出した人もいるはず。 3000万に目が眩んで自分たちのものにしようとした祐子と義光も馬鹿だなあとは思うけれど、自分がその立場に置かれたら、どうだろう。金額の大きさにかかわらず、他人のものを盗んだらそれは犯罪だが、小さければ小さいほど、そのハードルは低くなってクラっとするかもしれない。 だけど、その選択の責任は取らなくちゃいけない。祐子が情報を抜き出し、強盗被害に遭った女性は子供と孫のために貯めていたお金を盗まれた。 息子の純一(味元耀大)も真実を知り、過呼吸になるほど苦しんでいる。ほんの少し幸せな生活を求めてやったことは祐子たち自身も周りも、不幸せにしただけだった。それでも負のループから抜け出す勇気がない祐子と義光に気づきを与えたのは、奥島の歌だ。
ありきたりな歌詞なのに突き刺さる…
〈いつだって戻れるんだ 何度だってやり直せるんだ〉 奥島が歌ったのはマゼランのヒット曲「夜明けホープ」。ありがちなメロディに、ありがちな歌詞なのに、祐子たちにはひどく刺さった。きっと義光の頭には純粋に夢見ていたあの頃が、祐子の頭には自分に笑いかけてくれた純一の顔が浮かんだことだろう。 2人とも、「こんなはずじゃなかった」を重ねてきた。そう思った時にやり直せばよかった。やり直すタイミングは何度だってあったはずなのに、絵の具を重ねるように罪を上塗りして日常というキャンパスを汚してきた。 そのことに気づいた祐子と義光は奥島に全て打ち明けることを決意する。元はと言えば、純一が3000万を盗んできたことが始まりだが、ソラが言っていたように子供は責任を取れない。 取れないからこそ、代わりにお金を返すべきだったのだ。後悔しても遅いが、その反省を胸に2人は自分たちがしてきたこと全ての責任をとるつもりだった。 しかし、神様は彼らからとことんやり直す機会を奪っていく。本当のボスから裏切り者探しを頼まれた坂本と長田の魔の手が、純一に忍び寄ろうとしていた。「警察に情報を漏らしたら子供をさらう」というメッセージを受け取った祐子。 前言撤回で奥島に打ち明けるのをやめようとしたが、義光がすでに全部喋ってしまった後だった。「しつけがなってねえよ!」というソラの一言が、そんな状況じゃないのに笑える。 先が見えなくてハラハラするのに、時々気の抜けるようなシュールな笑いどころがあって、妙にリアリティのある登場人物たちに共感してしまう。まさに新感覚。最後まで目が離せない。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子