子ども食堂で自衛隊が募集広報 防衛事務次官通達に抵触か
「明白な通達違反」
札幌地本の「直接配布はない」との主張に対し、自衛隊に詳しい佐藤博文弁護士は反論する。「自衛隊の採用案内は、まさに通達が禁じる募集広報の『ちらし』だ。保護者なしで来る子も多いはずで、子ども食堂の職員が配ろうと、自発的に持っていかせようと、『保護者』『学校の進路指導担当者』がいない直接的な配布に当たり、明白な通達違反だ。小学生や中学1、2年生は、通達が対象とする中3ではないから形式的には通達の範囲外だが、就職勧誘自体、職安法上許されない」 少年兵撲滅のため、18歳未満の戦闘参加を禁じた、「子どもの権利条約」の追加議定書が02年に発効、日本も04年に批准した。このため、中学卒業後に入る陸自高等工科学校(神奈川県横須賀市)の生徒の身分は、08年度までは国際法上は戦闘員の「自衛官」だったが、09年度から非戦闘員の「生徒」に変わった。 佐藤弁護士は「子ども食堂は子どもの福祉のための社会公益活動で、企業であれ官庁であれリクルートへの利用は、社会的弱者を狙った一種の『貧困ビジネス』というべきだ」と批判する。札幌地本は「指摘は当たらない」、防衛省は「関係者と相談しながら進めており、問題はない」と答えた。 自衛官の出身を都道府県別でみると北海道は3万人超でダントツだ。一方、人口が北海道の3倍近い東京都出身は1万人弱。東京の港区や渋谷区の子ども食堂で、自衛隊は同じような募集活動ができるのか。 米オレゴン州立レイノルズ高校の社会科教員シルビア・マクガーリー氏の論考「学校への軍事的侵略―下級予備役将校訓練課程(JROTC)の役割について」(15年12月『POSSE』29号)は示唆に富む。「高校における軍の圧倒的な存在感は、明らかな教育格差の反映である。ポートランド市街にある経済的に余裕のあるリンカーン高校の校内には大学の広報担当者がいる一方で、レイノルズ高校にはほとんどいない。そのかわりに、軍隊のリクルーター(中略)が、入隊候補者との日常的な接触を確保しようと躍起になっている」 佐藤弁護士は言った。「自衛隊の子ども食堂への『侵略』をやめさせなければならない」 武器を持つ組織は強い。丸腰の首相や国会議員を支配しようと思えば簡単だ。日本や世界各国の歴史を見れば、その結末の悲惨さは容易にわかる。だから、武装組織は謙抑の精神を持たなければならない。威張ってはならない。大手を振ってはならない。自重自戒は強者の義務だ。 血を流すこと、人を傷をつけること、命を奪うことなど知らない子どもたちに、語るべき言葉は何か。語ってはいけない言葉は何か。銃を持つ人々は考えるべきだ。
長谷川 綾・『北海道新聞』記者