子ども食堂で自衛隊が募集広報 防衛事務次官通達に抵触か
小4が基地で戦車乗る
札幌地本によると、約10カ所を訪問後、子ども食堂の職員1人が、予備自衛官補を志願した。予備自衛官補は、非常勤の特別職国家公務員で、訓練後に有事や災害時に招集される予備自衛官になる。 また、2カ所からの依頼で基地体験などの「自衛隊の活動の紹介」を行なった。その一つが、札幌市西区の「あかはな子ども食堂」だ。運営NPO代表の鳥井孝将さん(44歳)によると、昨年9月6日に札幌地本からメールが届き、9月8日、広報官ら男女2人が訪れ、タオルなどのグッズを子どもたちに届けた。その際、広報官から「何か協力できることはないか」と問われ、鳥井さんから基地見学を提案。今年1月11日に、陸自東千歳駐屯地(千歳市)の第7師団で1日体験学習を行なった。 小学4年生(当時)の男子4人が迷彩服に着替え、補給や整備を担当する第7後方支援連隊を見学。戦車に乗って動かしてもらったり、ガスマスクをつけたりしたという。子ども食堂から駐屯地まで車の送迎つきで、参加費は昼食代の500円のみ。子どもたちは帰宅後、「ガスマスクが重かった」「かっこよかった」と興奮した様子で、おしゃべりが止まらなかったという。 長男が参加した大滝玲香さん(40歳)は「みんな目をキラキラさせて帰ってきた。絶対自衛隊になるぞ、というわけではないけど、サッカー選手とか弁護士とか言っていたのが、一つの(職業の)選択肢として『あるかもね』と言っている。自衛隊について知るいい機会を与えてくださった」と感謝する。 「臨床道化師」として病院や福祉施設を回る鳥井さんは、道内各地で自衛隊の「頑張る姿」を見てきた。北海道胆振東部地震の時は、被災地で日夜、復旧作業に当たっていた。空知管内長沼町の盆踊りでは、空自長沼分屯基地の隊員たちが仮装して盛り上げていた。コロナ下で実現しなかったものの、テレビで、人気お笑い芸人が自衛隊の体験入隊で実弾を放つのを見て、千歳の空自基地に、子どもたちに見せるための動画撮影を頼んだこともある。「まわりの国がいろいろな力を持って交渉のテーブルに乗っかってくるのに、丸腰のままでいるのか。戦争にしないのは政治家の仕事。いざという時のために、自衛隊は国防を担っているし、災害の時はみんな世話になる。年配の人は戦争体験で拒否反応があるかもしれないが、自衛隊も一つの仕事。知りもせず、反対しているのではないか」 自衛隊の訪問を受けた別の子ども食堂は「地域の方が自由に出入りする場で、自衛隊だろうが商店街だろうがチラシを置かせてほしいと言われれば拒まない」と話した。 だが、打診を受けた運営者の多くが、違和感を口にした。 「怖かった。子ども食堂まで(募集に)くるなんて、いずれ徴兵制になるんじゃないだろうか、とふっと思った」。ある女性運営者は、自衛隊からのメールに驚いた。「いろいろな企業から寄付やボランティアの話があるが、子ども食堂に依頼する内容だろうか」と考え、申し出を断った。 別の子ども食堂を運営する男性はスタッフと話し合い、メールに返信しなかった。「子ども食堂は、なかなか家族みんなで食事をとれない子どもや高齢者も集まって一緒に食事を楽しむ場所だ。趣旨が違うところにつけ込んでくるなんて」と不信感を募らせた。 自衛隊は国際法上の軍隊、自衛官は兵士(戦闘員)だ。子ども食堂は根拠法がなく、形は多様だが、子どもが安心できる居場所のはず。子どもの居場所で兵士集めをするのか。