「あなたは容疑者です」本誌記者200万円騙し取られた!全国で急増する “ニセ石川県警” からの電話、微塵も疑わず
ニュースを見るたび、こんなの、誰が引っかかるんだよと思っていた。高校生のときからスマホを持つのが当たり前な世代で、自分は “情報強者” だと自負していた。あの一本の電話がかかってくるまでは――。 【写真】詐欺グループが使用していたLINEのアイコン 全国で急増している警察を名乗る詐欺電話。なかでも多発しているといわれるのが、石川県警の警察官を名乗る人物による詐欺犯罪だ。本誌の20代記者・Aもその被害にあい、200万円あまりを騙し取られた。 10月某日の16時ごろ。非通知の電話に出ると、「警視庁刑事課のスズキです。☓☓市に住む(住所)に在住のAさんか」と、身元を確認された。間を置かず、スズキは私に「あなたが詐欺事件の容疑者になっている」と告げた。事件にかかわったという心当たりはまったくないものの、スズキはこう続ける。 「石川県で発生した詐欺の犯行グループの主犯・ハシモトを逮捕したところ、マネーロンダリングしていた口座があなた名義だった。ハシモトは、あなたから40万円で銀行口座を買い取ったと供述している」 スズキの話を聞きながら考えた。私は過去に、クレジットカードを不正利用されたことがあった。もしかしたら、そのときに漏れた個人情報のせいで、疑いをかけられているのかもしれない。無実を証明しなければ――。 「無実なら、任意で石川県に来たうえで、20日間の勾留と事情聴取を受けてくれないか」 と持ちかけられるが、仕事がある以上、受け入れることはできない。すると一転、スズキは態度を軟化させた。 「全国で100人以上の被害者が出ている。この電話を石川県警に転送するので、どうか事情を聴かせてほしい」 スズキは私に、事件番号「令和5刑(わ)754」という数字をメモさせ、石川県警を名乗るミナミアキラという男のLINEアカウントに案内した。ミナミは私に、周囲に誰もいないかを確認し、ビデオ通話が始まった。 ミナミは一瞬、警察手帳のようなものを画面越しに見せたが、「署内では周囲を映せない」という理由で、すぐに画面をオフにしてしまった。 「お前も、犯罪に加担しているんだぞ!」 ミナミからは、ハシモトの特徴を列挙され、「本当に知らないのか」と、強い口調で問いただされた。有罪となれば懲役3~10年となり、財産も凍結されると脅された。 そして、通話相手はサトウヒロシという “検事” に代わる。あたかも警察署内を移動しているかのように、扉をノックする音や、すれ違いざまに雑談をする様子が伝わってきた。この時点で通話時間は2時間半を超え、私は相手が、警察や検事であることを微塵も疑っていなかった。 「あなたは大丈夫です」 典型的なアメとムチ。いまならそう言えるが、私はすでにサトウの優しい言葉がありがたかった。振り返ると、話の端々に違和感が残っている。だがこのときは、求められるがままに口座情報や、個人情報の塊である運転免許証の画像を送ってしまった。そして、こんな話に、まんまと乗ってしまう。 「『資金調査手続き』をして、あなたの口座に犯行で使われたお札がなければ “シロ” です。調査を受けて、金融庁から資金証明書を発行してもらえば、あなたは容疑者から被害者になれます」 私は、サトウの言うとおりにインターネットバンキングで、指定口座に約200万円を即時に振り込んだ。その直後、不安に襲われた私は、汗だくで無人の交番に駆け込んだ。交番内の電話で、つながった先に必死に説明した。 「それ、100%詐欺ですね」 受話器の声が遠くなり、全身から汗が引いた。パニック状態になりながら、タクシーを止めて警察署に向かった。最初の非通知着信から、まだ5時間しかたっていなかった。その日の夜、銀行側が詐欺グループの指定口座を凍結してくれた。一部は引き落とされてしまっていたというが、「被害規模を調査中」という銀行からは、まだ詳細な連絡はない。 「ひとつの署で、毎月10件ほどの被害届が出ている」 担当してくれた警察官はこう教えてくれた。詐欺グループが逮捕されても、被害者の頭数で残金が分配されるため、私の手元にはほとんど戻ってこない可能性が高いそうだ。当初は犯人への怒りよりも、間抜けな自分への失望感が大きかった。いまは「お金はどうせ戻ってこない」というマインドで、新たな一歩を踏み出そうという気持ちになりつつある。