良心的な値段で技術は一流なのに…韓国で「昔ながらの専門店」が次々と消えている“切ない”理由
◆消えた漫画本貸与店
時代の変化とともに、いつの間にか消えてしまった店もある。そのうちの一つが漫画の貸与店だ。 今ではひと昔前を舞台とする映画やドラマでしかその姿を見ることができなくなったが、その名の通り漫画をレンタルしてくれる店で、漫画だけでなく雑誌やVHSを取り扱う店もあった。 1980年代に登場し、2000年代中ごろまで、街の至る所で見かけたこの本貸与店(チェクデヨチョム)は、筆者も2000年に初渡韓した際その存在を知り、以降何度も利用した。 日本では漫画喫茶で読むか、そうでなければレンタルするよりも書店や古本屋で買って読むのが普通であったから、漫画を専門の店から借りるというシステムを珍しく思ったものだ。 また逆にそのころの韓国では、“漫画は借りて読む”という認識が一般的だったようだ。当時韓国にも漫画房(マンファバン)という漫画喫茶的な存在の店も多くあったため、なおさら漫画は買うものではなかったのかもしれない。 街の書店に並ぶ漫画本が意外と少なく不思議に思っていたが、まもなく韓国のこういった事情を知り、納得したことを記憶している。 さて、この本貸与店だが、2010年に差し掛かるころには、当時筆者が住んでいたソウルのとある街からも消えた。調べてみると、今でもごくごくわずかに残ってはいるようだが、すでに一般的な存在ではない。 そもそも漫画を買いたいなら自宅にいながらしてインターネットで購入できる、しかも韓国の配送は早い。電子書籍が普及した今となっては海外の翻訳漫画などもスマホで読むことができる。 そして何よりも、ウェブトゥーン(スマホの画面を縦にスクロールしながら読む漫画)が台頭し、韓国で漫画といえばウェブトゥーンである。こうした変化の中にあって、本貸与店は早々に消えゆく運命にあったのかもしれない。 いつの時代も変化しない事柄はないけれど、消えゆく、消えてしまった専門店のことを思うと、ちょっぴり寂しい気もする。
▼松田 カノンプロフィール
翻訳家・カルチャーライター。在韓16年目、現地のリアルな情報をもとに韓国文化や観光に関する取材・執筆、コンテンツ監修など幅広くこなす。著書に『ソウルまるごとお土産ガイド(産業編集センター)』などがある。All About 韓国ガイド。
松田 カノン(翻訳家・韓国専門カルチャーライター)