「被災地の現状よりも、そこで食べた550円のオムライスの写真のほうがバズるSNSの現状にモヤッとして…」選挙に憑りつかれたライター・畠山理仁が提唱する“選挙漫遊”の極意
畠山理仁×水道橋博士×前田亜紀 #3
マスメディアから「泡沫」と呼ばれてきた数々の選挙立候補者たちを25年間取材してきたノンフィクションライターを密着ドキュメントした映画『NO選挙,NO LIFE』(前田亜紀監督)が話題を呼んでいる。同作の主人公にして「コスパ、タイパ無視」ライター・畠山理仁と前田監督、旧知の仲である水道橋博士の3人で語ってもらった鼎談のスピンオフ。 【画像】ファンからもらった特注の選挙投票箱 #1と#2の鼎談の最後、水道橋博士に「博士がリスペクトするライター界のレジェンド竹中労と畠山理仁に共通すると思うものがあれば教えてほしい」とたずねたところ、こんな答えが返ってきた。 「“右翼でなく左翼でもない、みんな仲良く。”これを言ったのは喜納昌吉ですが、竹中労も、“左右を弁別せざる状況”を志向しつづけた人。その上をいくというか、左右もなければ上下もない、というのが畠山さんなんだね。ちがいは、竹中労はあまねく人を見て、批判をすることで状況を生もうとしてきたけれど、畠山さんは激烈な批判はしない。共通するのは、眼差し。とびきり弱者にやさしいことですね」 Zoomの画面を凝視していた畠山さんが「いやあ」と恐縮する。博士がフェイドアウトした後、監督と畠山氏、居合わせた編集者の座談となった。 ──結局、畠山さんが「権力」を持ちたいと思われるようになったのはいつ頃からですか。 畠山理仁(以下、畠山) いよいよお金が尽き、(選挙取材からの)引退を考えはじめたあたりからですかねぇ。やめる前に一発花火をあげたいとか、もし自分がイチローだったら、もっとたくさんの人が興味をもってくれるんじゃないかとか。自分にもっと発信力があれば状況は違ってくるのかもしれないと思ったところから、権力志向に目覚めはじめるんですね。 前田亜紀(以下、前田) え、そうなんですか? 畠山 ただ、僕が望むものは「みんな自由に生きていいんじゃないの」。そういう世の中にするために影響力をもちたい。 前田 それはいつ頃からですか? 畠山 2017年に『黙殺』で開高健ノンフィクション賞をもらい、仕事を評価してもらえたことで気持ちの余裕ができてからですね。 前田 気持ちの余裕ができてから? 畠山 そうそう。評価はしてもらえたけれど、なかなか本は売れない。まだまだだなあ、と。同時に世の中がギスギスしはじめた。外国人に対するヘイトだとか、性的マイノリティに対して厳しいことを言いがちな世の中は嫌なので、なんとかしないといけない、どうしたらいいのかと考えるようになり……。 ──いっそ、畠山さんご自身が選挙に立候補されるというのは? 畠山 アハハハハ。僕は向いてないです。得票が数字となって結果が出るのは耐えられないですから。それに僕ひとりが立候補するよりも、「選挙に出ませんか」とたくさんの人に声をかけつづけることのほうが大事だと思うんです。これは僕しかできない。自分が立候補するとなれば、その人たちがライバルになるのは嫌ですから。 前田 (じっと畠山を見る) 畠山 実際、声をかけていると、けっこう選挙に出てくれる人はいるんです。たまに「『黙殺』を読んで選挙に出ようと思いました」と言ってくれる人がいて。もしくは、出ようと思っていたときに『黙殺』を読んで意思を固めた人だとか。そうか。意外といいことをしている(笑)。そういうふうに自分で自分を褒めて励まさないと続けられない状況がこの何年かあって。 前田 畠山さんを褒めている人はたくさんいますよ。 畠山 ええ。とてもありがたいです。でも、もっともっと世の中に広げないと。