「潰瘍性大腸炎」や「クローン病」など腸の病気を医師が解説 食べ物や日常の注意点とは?
炎症性腸疾患(IBD)と診断される人に多い症状一覧 診断基準となる検査は何をするの?
編集部: 炎症性腸疾患の人には、どんな症状が表れるのですか? 河口先生: 初期症状としては下痢が表れることが多く、徐々にゆるくなって水のようになっていく(水様便)こともあります。さらに進行すると血便や下血、腹痛をたびたび起こすようになり、発熱や体重の減少、貧血などが表れます。 さらに、クローン病の場合は、腸閉塞になりやすく、食べ物が詰まって便が出ない、「痔ろう」となって肛門周囲に膿瘍ができるといったこともあります。 編集部: もう少し具体的に教えていただけますか? 河口先生: 下痢や腹痛などの症状が続く方は、以下のチェックをしてみてください。当てはまる項目が多い場合は、病院で検査を受けることをお勧めします。 ・下痢が続いている ・腹痛や下痢で眠れないことがある ・お腹が張りやすい ・血便がある。または便潜血陽性になったことがある ・肛門周囲に腫れや膿がある ・ここ最近、体重が急に減った ・便意はあるのに出ないことがある 編集部: これらの症状があると、炎症性腸疾患と診断されるのですか? 河口先生: これらの症状のある方は、炎症性腸疾患の可能性があります。 しかしながら、炎症性腸疾患以外の病気でも同様の症状が表れることは多いため、正しく診断するためには、大腸内視鏡検査をはじめ、便の細菌の検査や血液検査などを行います。さらに、クローン病の診断には、胃や小腸の検査も必要です。 編集部: 炎症性腸疾患は難病に指定されていると聞きました。 河口先生: そうですね。潰瘍性大腸炎もクローン病も厚生労働省により「指定難病」に定められており、先ほどのさまざまな検査で診断されると、一定の条件を満たすことで国から医療費助成を受けることができます。
炎症性腸疾患(IBD)の人は腸の炎症を抑えるために何を食べるべき? 治療中の日常生活のヒントや注意点が知りたい
編集部: 炎症性腸疾患が完治することはないのですか? 河口先生: この病気は少しずつ解明されてきているところはありますが、残念ながら現時点では「完治」させる方法が見つかっていません。 一度発症すると、悪化(再燃)と改善(寛解)を生涯繰り返します。炎症性腸疾患の治療は、腸の炎症を抑え、寛解期を出来るだけ長く保てるようにコントロールするのが目標となります。 編集部: 腸の炎症を抑えるために、何を食べたら良いのでしょうか? 河口先生: まず大前提として、炎症性腸疾患の腸の炎症を抑えるにはお薬による治療が最も効果的で重要です。その上で、炎症性腸疾患患者さんの食生活には腸内環境の改善が大事だということが近年の研究でわかっています。 例えば一部の善玉菌はヒトが食べた食物繊維を分解して酪酸や酢酸などの短鎖脂肪酸を産生しますが、この短鎖脂肪酸は腸の免疫機能を正常化させる働きがあることが様々な基礎研究で明らかになっています。 また炎症性腸疾患の患者さんの腸内ではこれら善玉菌が減少していることも知られています。 ですから、炎症性腸疾患の患者さんには、味噌や納豆やヨーグルトなどの「発酵食品」から善玉菌を補うとともに雑穀や芋類、野菜、果物など「水溶性食物繊維」を積極的に摂ることで善玉菌にたくさんエサをあたえ、腸の中で善玉菌をたくさん育てることをお勧めしています。 編集部: なるほど、そうなのですね。 河口先生: ただし、クローン病で腸が狭くなっている人は、食物繊維を食べすぎると腸管が詰まってしまうので、食物繊維は控えるか、よく噛んで細かく砕いて食べるようにしてください。 あとは油っこいものや辛いものは腸に刺激になるので、腸に炎症がある方は控えたほうがいいでしょう。全体的には、「肉より魚」「洋食より和食」とイメージされるとよいと思います。 編集部: ほかに、日常生活で気をつけた方が良いことなどありましたら教えてください。 河口先生: 腸の免疫に深く関与している自律神経は、睡眠不足やストレスの影響を受けやすいため、睡眠をしっかり確保することやストレスがたまらないような生活を心がけるといった対応が効果的です。 さらに、症状がない時期も薬はしっかり続けるなど、ご自身で症状をコントロールし、人生を前向きに満喫するよう意識することも大事だと思います。 編集部: 最後に、メディカルドック読者へのメッセージがあればお願いします。 河口先生: 炎症性腸疾患の患者さんは年々増えています。現時点で「完治」は難しい病気ではありますが、早期に発見し治療を開始することで、病気がご自身の仕事や日常生活に及ぼす影響を最小限に抑えることは可能です。 チェックリストで思い当たる症状のある方は、専門の医療機関で早めに相談・検査をしましょう。 相談する医療機関を選ぶ際には、炎症性腸疾患の専門知識のあるドクターがいるか、自身のライフスタイルにあわせて無理なく通える診療時間かなど、事前にHPなどで確認してから受診することをお勧めします。