2024年世界の平均気温 抑制目標の「1.5度」初めて超える
去年1年間の世界の平均気温は記録が残る1850年以降、最も高く、工業発達以前と比べて初めて1.5度以上高くなったと、欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」が10日、発表した。 グローバル・データの提供元として世界有数の「コペルニクス気候変動サービス」は10日、気候や海洋の観測状況に関する最新の分析を発表。それによると、2024年の平均気温は人類が大量の化石燃料を燃やし始めた工業発達以前よりも1.6度高かった。 今回の数字は、2023年の記録を0.1度上回った。これに伴い、過去10年間の気温は記録史上最も高温だったことになる。 イギリス気象庁や米航空宇宙局(NASA)もそれぞれ、独自の最新データを10日にも公表する。正確な数字に多少の幅はあるものの、いずれの機関も2024年が記録上最も温かい年だったという点で、一致する見通し。 昨年の高温は主に、人間が二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスを未だに記録的なレベルで排出し続けたことによる。 太平洋赤道域の海面水温が平年より高くなり持続するエルニーニョ現象など、自然現象による影響は、人為的な温室効果ガスよりも小さかった。 コペルニクス気候変動サービスのサマンサ・バージェス副所長はBBCに、「私たちの気候に最大の影響を与えているのは、圧倒的に、大気に集中的に含まれる温室効果ガスだ」と話した。 「1.5度」という数字は、2015年のパリ協定で気温上昇の抑制目標値として合意して以来、気候変動に関する国際交渉において強力な象徴性を持つようになっている。気候変動を特に強く受ける国々は、この「1.5度」以内に気温上昇を収められるかが、自分たちの存亡にかかわると受け止めている。 激しい熱波や海水面の上昇、野生動植物の減少といった気候変動による影響は、工業発達以前からの気温上昇が1.5度だった場合と、2度だった場合を比べれば、2度のほうがはるかに深刻なものになると、画期的な2018年国連報告書は指摘している。 それでも世界は、1.5度を突破する方向で徐々に推移してきた。 「1.5度の閾値(いきち)をいつから長期的に超えるようになるのか、正確に予測しにくいが、明らかにその段階に非常に近づいている」と、国連報告書を執筆した一人で英オックスフォード大物理学部のマイルズ・アレン教授(ジオシステム科学)は話す。 現在の進み具合では、世界はおそらく長期的な温暖化の抑制目標値1.5℃を、2030年代初頭までに超える可能性が高い。これは政治的に重要な意味を持つが、気候対策がそれでおしまいということではない。 「1.49度なら大丈夫で、1.51度がこの世の終わりというわけではない。気温が0.1度ごとの上昇には意味があり、温暖化が進むほど気候への影響は漸進的に悪化する」と、アメリカの研究グループ「バークリー・アース」の気候科学者ジーク・ハウスファーザーウジは説明する。 1度未満のわずかな上昇分でも、熱波や豪雨などの極端な気象現象がより頻繁かつ激しくなる可能性がある。 2024年には、西アフリカでの猛暑、南アメリカの一部での長期的な干ばつ、中央ヨーロッパでの豪雨、北アメリカと南アジアを襲った特に強力な熱帯暴風雨などが相次いだ。 世界気象分析グループ(WWA)は、こうした事象は昨年の気候変動によってより激しくなったものの、ごく一部に過ぎないと指摘する。 今週も、新しいデータが発表される中、米カリフォルニア州ロサンゼルスは強風と降雨不足のため拡大する破壊的な山火事に見舞われている。 ロサンゼルスの火事には多くの要因が寄与しているが、専門家は、温暖化する世界ではカリフォルニア州で火災が発生しやすい条件がますます増えていると述べている。 2024年に新記録を作ったのは、気温だけではない。世界の海面温度も新たな日次最高値に達し、大気中の総水分量も記録的なレベルに達した。 世界が次々と気象の新記録を更新していることは、決して意外ではない。昨年4月頃に終了したエルニーニョに加え、人為的な温暖化の影響で、2024年が暑い年になることはかねて予想されていた。 しかし、近年のさまざまな記録の上昇幅は、予想を超えている。これは温暖化の加速を示すものかもしれないと、一部の科学者は懸念している。 「2023年と2024年の2年とも、ほとんどの気候科学者がその気温に驚いてしまった。これほど早く1.5度を超える年が来るとは、我々は思っていなかった」とハウスファーザー博士は言う。 「2023年以降、気候変動とエルニーニョから予想される以上の、約0.2度多い、追加の温暖化が起きている。この原因は、完全には説明できていない」と、ドイツのアルフレッド・ウェゲナー研究所の気候物理学者ヘルゲ・ゲスリング博士は同意する。 この「追加の」温暖化を説明するために、気温冷却効果のある低層雲の減少や、エルニーニョ終了後も海洋熱が続いたことなど、さまざまな理論が提案されている。 「この加速が人間活動に関連する持続的なもので、温暖化が将来的に一気に進むことを意味するのか、それとも自然の変動の一部なのか、現時点での判断は非常に難しい」とゲスリング博士は付け加える。 不透明な事態ながら、科学者たちは、人間が依然として将来の気候を制御できる、温室効果ガスの排出量を大幅に減らせば温暖化の影響を軽減できると強調している。 「たとえ1.5度が達成できなくても、今世紀に温暖化を1.6度、1.7度、または1.8度に制限することは今でもおそらく可能」だと、ハウスファーザー博士は言う。 「そうした方が、石炭、石油、ガスを無制限に燃やし続けて、3度や4度に達してしまうより、はるかに良い結果につながる。(温暖化対策は)今でも本当に重要だ」 (英語記事 2024 first year to pass 1.5C global warming limit)
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