赤ちゃんの遺伝子を操作する時代に…「人類をアップデート」して「完璧な人間」を目指すという「あまりにグロテスクな未来」
「自分らしく生きたい」が生むディストピア
ゲノム編集は、ネガティブな影響力をもつDNAの配列を修正したり、「よりよい」配列に改変できるだけで、人間にもともと備わっていない能力がもてるようになるわけではない。 映画『X-MEN』のようなミュータントはつくれないが、『ガタカ』が描くような、人工授精と遺伝子操作によって優れた知能・体力・外見をもつ「適正者」と、自然妊娠で生まれた「不適正者」に世界を分断するじゅうぶんなちからをもっている。 ──『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリはこれを「ホモ・デウス(神人)」と「無用者階級」と呼び、いずれわたしたちはこのような未来を迎えることになるという不吉な予言をした。 それにもかかわらず、いまの自分を超えて「ほんとうの自分」になりたいという「見果てぬ夢」を、わたしたちはあきらめることはできないだろう。それはいままさに、(一部のひとには)手の届くところまできているのだから。 テクノロジーの発達は不可逆的で、ひとびとの「もっとゆたかになりたい」「幸福になりたい」という願いや欲望を制止することは、(気候変動で人類が地球に住めなくなるような事態を除けば)不可能だろう。 「自分らしく生きたい」という60年代のささやかな夢は、テクノロジーと融合してトランスヒューマニズム(超人思想)となり、グロテスクなディストピアを生み出すことで終わるのだろうか。 さらに連載記事<頭が良くなりたい人は絶対にやった方がいい、最も効果のある「地頭を鍛える方法>では、地頭を鍛える方法についてさらに解説しています。ぜひご覧ください。
橘 玲(作家)