赤ちゃんの遺伝子を操作する時代に…「人類をアップデート」して「完璧な人間」を目指すという「あまりにグロテスクな未来」
ふつうに生きていたら転落するーー! あまりに残酷な「無理ゲー社会」を生き延びるための「たった一つの生存戦略」とは? 【写真】赤ちゃんの遺伝子を操作する時代に……「完璧な人間」を作り出す未来 作家の橘玲氏が、ますます難易度の上がっていく人生を攻略するために「残酷な世界をハックする=裏道を行く方法」をわかりやすく解説します。 ※本記事は橘玲『裏道を行け』(講談社現代新書、2021年)から抜粋・編集したものです。
優生学2・0とトランスヒューマニズム
脳とコンピュータ(インターネット)を融合させるBCIは脳科学の驚異的なブレークスルーで、「人間」の概念を大きく変えてしまう。その究極の目的は、脳のすべての情報をそのままコンピュータに転送するマインド・アップローディングだが、その実現には(楽観的な研究者でも)100年はかかるとする。 より現実的にニュータイプに近づく方法は、遺伝子編集によって「新人類」をつくりだすことだろう。 クリスパー・キャス9(ナイン)は、ワードプロセッサーのようにDNAの特定の配列を削除・挿入・コピーするゲノム編集技術で、これを使えば、ハンチントン病や嚢胞性線維症のような深刻な障害につながる単一遺伝子疾患を遺伝子レベルで治療できるし、がん治療への応用も期待されている。 そればかりか、単細胞ヒト胚を編集すれば、全世代の子孫に永続的な影響を与えることができる。これが「デザイナーベイビー」で、髪や目の色の遺伝子はある程度特定できているので、日本人でも金髪碧眼の子どもをもつことが可能になるだろう。 知能は多くの遺伝子がかかわる複雑(ポリジェニック)な過程で、IQの高い子どもを人工的につくることは現在の技術水準では不可能だが、将来的には、知能にかかわる主要な遺伝子が特定されることは間違いない。 「優れた」遺伝子をもつ者同士を交配させ、「劣った」遺伝子を排除することで人類を進化させようとしたのが優生学(Eugenics)で、精神病者・障害者の断種やホロコーストの悲劇を生んだ。それに対して、テクノロジーによって自分の子どもの遺伝子を操作することは「優生学2・0(Eugenics2.0)」と呼ばれる。 中国では2018年に、研究者がゲノム編集の技術を使ってエイズウイルス(HIV)に耐性がある遺伝子をもつ双子を誕生させたと発表し、アメリカでは21年、生物学者の親が「多遺伝子胚スクリーニング」でもっとも優れた受精卵を選んで子どもをもうけた事例が報じられた。