個性派ソリストが「Pops Concert」で競演! NAOTOが語る東京藝大音楽付属高の魅力
日本で唯一の国立音楽高校である「東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校(藝高)」の創立70周年を記念したコンサート「飛翔~GEIKO 70th Anniversary~」が開催される。5日間におよぶ公演でピアノに邦楽、オーケストラとこれぞ藝高と言えるプログラムが並ぶ中で、異彩を放っているのが12月1日(月) に行われる「Pops Concert」である。NAOTO(ヴァイオリン)、弦一徹(ヴァイオリン)、榊原大(ピアノ)、中川英二郎(トロンボーン)、山崎千裕(トランペット)という藝高出身のソリスト5名がこのコンサートのためだけに集結する。“藝高らしからぬ”このラインナップを実現させたNAOTOと藝高の大平記子副校長に話を聞いた。 【全ての写真】ヴァイオリニストのNAOTO ――おふたりは藝高の同級生だそうですが、学生時代は一緒に演奏する機会も……? 大平 私はフルートでNAOTOはヴァイオリンだったので一緒に演奏するような機会はあんまりなかったよね? NAOTO 毎週のオケの授業はあったけど……。 大平 そうね、学校の授業くらいですね。でも、生徒数が少なくて1学年1クラスで約40人、3学年あわせても120人くらいなので3学年全員の顔と名前は知っていました。密なんです(笑)。 NAOTO 楽しみが席替えしかないんですよ(苦笑)。クラス替えがないんでね。学校に来たら名札をひっくり返すので、誰が来ていないかもひと目でわかるんです。 大平 いまだにそういうシステムなんです。国会に出席するみたいな(笑)。 ――せっかくなので、おふたりがどんな高校生活を送ったのかもお聞かせください。 大平 おそらく私とNAOTOで全く違った高校生活だったんじゃないかと(笑)。 NAOTO 同じ学校、学年の生徒とは思えないくらい違ったと思います。おそらくクラスの40人のうち、35人は(大平副校長を指して)こちらのタイプだと思います。残り5人は僕のほうのタイプです。 大平 前提として約40名全員、ひたむきに音楽に取り組んで、この学校に入ってきたというのは同じです。私自身、高校時代の思い出はとにかく練習、練習でしたね。でもみんなと仲も良かったし、学校生活はすごく楽しかったです。 NAOTO 家族みたいな感じですよね。ただ国立の音楽高校って藝高だけなので生徒が全国各地から来るんです。でも寮がないので必然的に地方から来た生徒は15歳でひとり暮らしを始めなくちゃいけない。そりゃ野に放たれますよね(笑)。大平先生はご実家から通っていらしたんです。その差ですよね。 大平 その悩みも、いまの子たちも同じです。 NAOTO それまで親が身の回りのことを全部やってくれて、僕らは音楽に打ち込めばよかったけど、いきなり15歳で炊事、掃除、洗濯を全部やらなきゃいけなくなるわけでね。ヴァイオリンをやるために上京してきたのに、朝から米を炊いて、制服のワイシャツにアイロンをあてて……(苦笑)。それでも高校生活は楽しかったですよ。中学まで普通の学校に通っていて、周りの子たちは僕が音楽に打ち込んでいることは知っていても「練習があるから遊びに行けない」というのが、なかなか理解できないんですね。たまに「いまどんな曲をやってるの?」と聞いてくれる優しい子もいるんですけど「こんな作曲家のこんな曲をやっていて……」と答えたら、もう「?」ですよ(苦笑)。それが高校に入った瞬間「この作曲家のこの曲、誰々の演奏が良いよね」「そうそう!」という会話が誰とでも成り立つわけです。そりゃ楽しいですよ。 大平 それも本当にいまも変わらずですね。中学までどうしても孤立していた子たちが、ここにきて仲間ができて一気に楽しくなるんです。 NAOTO 良い環境と言えるかもしれないけど、変人の集まりですよ。でも、みなさん、わざわざお金払って“普通の人”が何かしてるのを見に行こうなんて思わないでしょ? パンダがその辺の道端にいたら、わざわざお金払って上野動物園に行かないでしょ? 何かしら普通とは違うものを見るためにみんな、お金を払うわけですよね。そういう意味で、誇るべき変人の集まりなんだなと思います。 大平 ここで働くようになって、ある種の生きづらさを抱えていた子たちがこの学校に入って活き活きしている姿を見て、本当に必要な場所なんだなと思うようになりましたね。 ――ちなみにNAOTOさんは高校の時点ですでにクラシックとは違う方向に進もうと思っていたんですか? NAOTO いや全然。高校では真面目にクラシックをやっていましたね。ポップな方向に進み始めたのは大学(東京藝大)からです。僕が高校1年生の時に、今回のコンサートにも参加してくださる榊原大さんと弦一徹さんが藝大在学中に(「Gクレフ」として)デビューしたんです。銀座のソニープラザでデビューイベントをやったんですけど、それをみんなで見に行って「すげぇな」と思ってたら、翌々年には紅白歌合戦にまで出てましたからね。ただ、高校の頃は「この人たち、こんなにすごいのになんでクラシックをやらないんだろう?」と思っていました。自分もそっちをやりたいと思ったのは大学に進んでからですね。 大平 でもNAOTOだからそこに驚きはなかったな。「そういう道も向いてるかも」って私だけでなくみんな思っていたと思います。さっきの話にもありましたけど、高校時代まではきちんと練習しないと、どの道に進むにしても通用しないんですよ。基本的にしっかりとした実力があった上での話だと思います。 NAOTO うん、どんなに野に放たれてもヴァイオリンだけはきちんと弾いてたね。 ――先生の側の視点では、そうやってクラシック以外の世界に進んでいく生徒たちのことはどのように受け止めているんですか? 大平 もう「何でもやってみなさい」という感じですね。自分の好きなこと、興味があることで生きていけるならそれが一番ですから。その根底に「藝高での充実したこんなに楽しい3年間があった」という思いがあったらいいなと思いますね。