GWに咲く「孤高の山桜」 一つひとつに日本の美のDNA
筆者が仕事場にしている長野県・白樺高原の山荘の前に、高さ20メートルはあろうかという立派な山桜の木がある。これが毎年ゴールデンウイークきっかりに開花するので、信州に移住してからというもの、僕の中では桜と言えば入学式ではなくGWというイメージが定着した。(フォトジャーナリスト・内村コースケ)
日本古来の野生種
現代人が単に桜と言うとソメイヨシノをイメージするが、これは江戸時代にエドヒガン系の桜とオオシマザクラを人工交配して作られたといわれている。そのため、現代の「花見」は、市街地や公園に計画的に植樹された園芸植物を愛でるという、極めて都会的なレジャーだとも言える。
一方、山桜は日本に古くから自生する桜で、古今和歌集や源氏物語にも歌われている。江戸時代以前の日本人にとっては、山桜こそが日本人の心を象徴する「桜」そのものだったのだ。奈良時代からの桜の名所である吉野山(奈良県)の桜も、ほとんどが山桜(シロヤマザクラ)である。
山桜は、里山から標高1000メートル以上の山地まで広く分布する。僕の家は標高1372メートルである。桜の名所は数多いが、GWに山桜が咲くのは、本州では信州をはじめとする中山間地域にほぼ限られるようだ。
山中に凛と咲く美しさ
我が家のそばを通る大門街道(国道152号線)は、中央自動車道・諏訪IC方面から白樺湖に至る道路で、GWには県外からの観光客の車やバイカーたちで一気に交通量が増える。そのほとんどの人が、標高1000メートルを超えたあたりから山肌にポツポツと浮かぶ白やピンクの山桜に目を奪われるはずだ。
家の前の木は今年、GW後半戦が始まった5月3日に満開となった。山桜は、「ある朝起きたら若葉とともに一気に満開になっていた」というような咲き方をする。山桜の花は、最初から葉桜の状態なのだ。ソメイヨシノを指して「満開よりも葉桜の方が好き」という人に時々出会うが、もしかして、日本人のDNAに刻まれた山桜への憧憬がそう思わせるのかもしれない。