コンゴ民主共和国の熱病と米国の鳥インフルエンザ ~どちらが本当の脅威か~【東京医科大客員教授・濱田篤郎】
◇懸念される病原性の高い感染症
今回の流行で懸念された感染症が二つあります。一つは、エボラ出血熱やマールブルグ熱のように病原性の高い感染症です。この地域では、以前からエボラ出血熱の患者が散発しており、それが原因であると、多数の死亡者が発生します。 もう一つは、動物から未知の病原体がヒトにうつり、流行をもたらすケースです。そもそもエボラ出血熱は1970年代にこの国の奥地でコウモリからヒトへの感染があり、最初の流行が起きたと考えられていますが、奥地への開発が進むと、そこに生息する動物の持つ未知の病原体に感染するリスクが高くなるのです。こうした未知の病原体にヒトは免疫を持っていないので、いったん流行が起きると、重症化したり患者が多発したりする危険性があります。 現時点で、このような兆候はありませんが、注意深く監視していくことが大切です。
◇パンデミックへの条件
COVID-19のようにパンデミックを起こすためには、二つの条件が必要になります。一つは、原因となる病原体の感染力が強いこと。現代社会であれば、患者の飛沫(ひまつ)などで広がる呼吸器感染症であることが条件になるでしょう。もう一つは、交通の便が良い場所で拡大すること。例えばCOVID-19は、中国の交通の要衝である武漢で最初の流行が起こりました。2003年に世界流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)も、国際都市である香港から世界に向けて拡大しました。 今回のコンゴ民主共和国で広がっている感染症はマラリアだとされているので、一番目の条件は満たしていませんし、患者が発生しているのはジャングルの奥地であり、二番目の条件も満たしていません。この結果、世界に向けて拡大する可能性は大変低いと考えます。
◇米国での鳥インフル拡大
このようなパンデミックの条件を満たしつつある感染症が、米国で流行中の鳥インフルエンザH5N1です。 今年に入ってから、H5N1型ウイルスはトリの間だけでなく、ウシにも感染するようになり、現在までに全米の800以上の牧場で流行しました。さらに4月からは牧場の労働者などにも患者が多発し、その数は12月中旬までにカリフォルニア州などで60人以上に達しています(図)。患者の症状は結膜炎や上気道炎など軽微ですが、その後、12月18日に米疾病対策センター(CDC)はルイジアナ州で重症患者が初めて発生したことを報告しました。 現在までに米国のほとんどの患者は、ウシやトリに接触してうつっていますが、ウイルスが変異してヒトからヒトに飛沫感染し、呼吸器感染症として流行するようになると、パンデミックの条件の一番目を満たすことになります。二番目の「交通の便が良い場所での拡大」という条件は、米国内で患者が多発していることから既に満たしており、H5N1はパンデミックに近い位置にいると言えるのです。