文武両道を貫く張本兄妹の父が、卓球よりも優先したこと【子育てインタビュー】
「卓球を辞めたい」と言われたら受け入れていた
智和は小学校入学前から、卓球クラブのそばにある学習塾にも通うようになった。それも自分から希望して、だ。 「当時、卓球クラブの生徒たちの多くが、その学習塾に通っていました。だから、智和は、塾に行くのは当然のことだと思ったのかもしれませんし、少し年上の子たちの真似をしたかっただけかもしれません。いずれにしても、勉強するのは楽しかったようで、喜んで通っていました。 学校から帰宅後、まず宿題を済ませ、学習塾がある日はそこで勉強してから卓球の練習をし、夜9時には就寝。学習塾で出される宿題は、朝、学校に行く前に済ませていました。時間が限られていたからこそ、集中して取り組めたのではないかと思います」 学校、塾、卓球クラブの3か所を往復する日々は、かなりストイックな生活のようにも思える。けれど、幼いうちからルーティーンになっていれば、子供にとってそれは、“当たり前のこと”となり、ストレスや不満を抱くことはないのかもしれない。 実際、智和も美和も、日本代表選手となり、海外遠征が増えた中学生以降も、学校の宿題はもちろんのこと、通っていた塾からも課題を取り寄せ、卓球の合間を縫って勉強を続けてきた。勉強することは、兄妹にとって、それほど日常的なものになっていたのだ。 ただし、カギになるのは、「本人が楽しみ、自ら進んで取り組むかどうか」。どんなに幼くても、もちろん意思はある。子供の気持ちをないがしろにして親が無理やりやらせたのでは、どこかでひずみが生じてもおかしくはない。 「子供に卓球をやらせたい、選手にしたいと、熱心な親御さんもいらっしゃいますが、大切なのは、その子自身のやる気です。卓球が好き、卓球が楽しいという気持ちで、夢中になって練習をする子の方が、絶対に伸びます。私たち夫婦も、もし、智和と美和が卓球を辞めたいと言ったら、それを受け入れるつもりでした。プロにしようと思って、卓球を始めさせたわけではありませんから」 後編ではその真意と、思春期を迎えてからの子供との接し方について聞いた。 張本宇/Yu Harimoto 中国・四川省のプロ卓球選手として活躍後、1993年に来日。その後、カタールやイタリアでプレーし、1998年からは仙台ジュニアクラブのコーチとして活動。元プロ卓球選手でマレーシア代表監督経験もある凌と結婚し、2003年に長男・智和、2008年に長女・美和が誕生。兄妹ともに日本代表選手として育て上げる。現在は張本仙台ジュニアクラブを運営し、女子ジュニアナショナルチームのコーチも務める。
TEXT=村上早苗