絶対に忘れられない、川崎・鬼木達監督が唯一「早く終わってほしい」と感じたゲーム。ACL挑戦へ続くすべてが始まった日【インタビュー1】
ルヴァンカップ決勝などにつながる
振り返れば、17年の浦和戦の悔しさは、リーグ優勝やルヴァンカップ制覇にはつなげられた。 「それこそ17年のホームの仙台戦。アキ(家長昭博)が前半のうちに退場してその後、2点をリードされた。それでもあの時は決して諦めなかった。状況や相手は異なりますが、攻める姿勢を貫くことができました(3-2の逆転勝利)。浦和戦の後、ずっとずっと、どうするべきだったかを考えていましたし、次にもし同じようなことが起こったらチャレンジしなきゃ駄目だという意識を持っていました。 (19年にPK戦の末に札幌を下して優勝した)ルヴァンカップの決勝もそう。(谷口)彰悟が延長戦で退場し、あの時、ベンチにいたのはDFの奈良竜樹とマギーニョ、MFの下田北斗、そしてGKのチョン・ソンリョンだった。CBが退場したわけですから、誰もが『奈良でいいですよね?』と聞いてきたわけです。でも僕は違うと。決して奈良が悪いというわけではなく、あの時点で、どこにパワーが必要なのかを考えた。そこでサイドでアップダウンできるマギーニョを起用したわけです。 全体を俯瞰して何が必要かをしっかり考えられたのがあのルヴァンカップの決勝でした。要はあのACLの敗戦があったからこそ、今まで常識と思っていたものを疑うではないですが、すべて自分の目で見て考えなくちゃいけないんだと学びました。 それは2020年に採用した4-3-3もそうで、守備の仕方はずっと“中締め”が正しいと、小学校の頃から教わってきました。でも、世界を見ればそうじゃないこともいっぱいあり、自分の勉強不足も痛感した。だからあの時はウイングに外から追わせて中でボールを奪う守備のやり方を取り入れたんです。 当たり前と思っていたことが本当に当たり前なのか。それこそ止める・蹴るもそうですよね。そこはヤヒさん(風間八宏前・川崎監督)の影響力がかなり強いですが、意識して見れば、止まっていない、蹴れていないことに気付く。それはちゃんと考えて見ないと分からないことで、やっぱり上手い人たちのプレーって、それまでは『上手いなぁ』で終わっていたものが、外す動きなどを含め、ベースとなる技術が本当にしっかりしていると分かる。そうやって新たな視点を持つことは大切なわけです」 もっとも、監督人生8年、あの浦和戦からACLでは「痛い目に合い続けている」。それは「自分の力不足」だと認識しているのだという。 「やっぱり、ホン・ミョンボさん(現・韓国代表監督/前・蔚山監督)らってブレないじゃないですか。あの落ち着きぶりは凄いと思います」 そして、その監督としての責任は、今季のリーグ開幕直前に迎えたACL2023-2024のラウンド16・山東戦でも味わうことになってしまう。 パート2に続く ■プロフィール おにき・とおる/74年4月20日生まれ、千葉県出身。現役時代は鹿島や川崎でボランチとして活躍。17年に川崎の監督に就任すると悲願のリーグ制覇を達成。その後も数々のタイトルをもたらした。“オニさん”の愛称で親しまれる。 取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部) ※ACLの新フォーマット 2024-25シーズンからAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)、AFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)、AFCチャレンジリーグ(ACGL)の3つのレベルの大会に再編。 ACLEはこれまでより少ない24クラブの出場で、グループステージは東地区、西地区それぞれ12チームに分かれ、8クラブと1試合ずつ対戦(ホーム4試合、アウェー4試合)。各地区上位8クラブがラウンド16(東地区の1位対8位など各地区内の順位によって対戦相手が決定)に進出し、ホーム&アウェーの2試合合計スコアで勝利したクラブが準々決勝へ。準々決勝から決勝は東地区と西地区が合わさったトーナメント戦で、2025年4月25日から5月4日までサウジアラビアで集中開催される予定。 優勝クラブは賞金1000万ドル(約14億6000万円)に加え、4年に1回開催されるFIFAクラブワールドカップ(2029年大会)の出場権を獲得する。 川崎はグループステージで蔚山(韓国/アウェー)、光州(韓国/ホーム)、上海申花(中国/アウェー)、上海海港(中国/ホーム)、ブリーラム(タイ/アウェー)、山東(中国/ホーム)、浦項(韓国/アウェー)、セントラルコースト(オーストラリア/ホーム)と対戦する。