「私は基本嫌われている」精神科を訪れた30代女性が語ったワケ
近年、職場や家庭の場で「生きづらさ」を抱えて来院される方が増えています。生きづらさと言えば、まず発達障害の問題が思い浮かぶ方も多いかと思います。 【マンガ】「一緒にお風呂入ろ」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性の罪悪感 外来で実際に診察していると、生きづらさを抱えて来院される方たちの中に、発達障害とは別のとある共通点を持った方をよく見かけます。診察に加えてWAIS(ウェイス)と呼ばれる知能検査、いわゆるIQを測定する検査を行うのですが、「境界知能」と呼ばれる方たちがかなりの割合で存在するのです。 これは平均値を100とするIQ検査で、IQ70~84に該当する方たちを指し、IQ69以下のいわゆる知的障害には該当しない方たちを指します。特に「発達障害の方に知能検査を実施したら境界知能も併存していた」、という方を非常によく見かけるのです。今回は発達障害に境界知能が併存することでどのような生きづらさが出てくるのか、実例を通してご紹介していこうと思います。 ※個人の特定に繋がらないよう、主旨に影響のない範囲で内容を変更しております。 記事前編「仕事はミスばかり、家庭では夫から罵倒…「何もかも上手くいかない」40代女性に潜んでいた“知られざる問題”」では40代女性Aさんのケースを紹介しています。
対人関係にも影響を及ぼす境界知能
30代の女性Bさん。大学を卒業後、これまでに数えきれないくらい職を転々とし、同じ職場で1年以上仕事が続いた試しがありません。転職を繰り返すうちに段々と自分自身に問題があるのではないかと思い至り、発達障害ではないかと疑いやはり一人で受診されました。 いざ診察してみると、不機嫌そうにため息をつきながら話され、一方では些細な話題で笑顔になるなど、他者から見ると誤解を招くような態度に終始しました。自身でもそれを自覚されているようで、「私は悪く思われがちで、基本嫌われている」、「上司からは叱られるし、同僚は私にだけ冷たい」と言うのです。 また仕事上のミスも多く、単純に仕事ができないという一面も見られました。普段の生活でもスマホや財布を頻繁になくしたり、また異性との交際も計画性がなく、行きずりの関係を繰り返したりしていました。 Bさんは自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)が併存していると診断しましたが、知能検査をしてみるとやはりIQ80と境界知能の結果が出ました。前述したAさんと比べるとかなり特性の濃い発達障害と言え、主にその特性が前面に出ていると言えますが、やはり境界知能による影響も無視できません。どんなに気を付けていても「毎日レジの会計が合わない」といった点や、対人関係の面でも言語能力の低さから意図していることが伝えられずに誤解を招いたり、(能力的に)そもそも仕事ができなかったりといったことが、より一層対人関係の悪化を招いていると言えます。