出遅れた日本、AIによるスピード創薬に活路…蓄積データとの融合がカギ
世界2位の創薬大国だった日本はコロナ禍で、ワクチンの大半を輸入に頼った。医薬品は、高度な科学とものづくり力が集積する「知識集約型」産業であり、資源の少ない日本が世界と勝負できる分野の一つだ。革新的な新薬や医療機器は、経済にも大きく貢献する。日本の創薬力は再び輝きを取り戻せるか。古くから関連産業が集積する関西の可能性と課題を探る。 【図表】医療用医薬品世界売り上げ上位100品目の国別起源ランキング
白い腕がピペットをつかみ、直径2センチの容器に液状の培地を注入していく。新薬を生み出す実験用のiPS細胞(人工多能性幹細胞)の培養、欲しい細胞を作るための作業を一手に行う。
小野薬品工業が水無瀬研究所(大阪府島本町)で2020年に導入した 汎用はんよう ヒト型ロボット「まほろ」は、AI(人工知能)に取り込んだ習熟者の技術や暗黙知のデータから正確な動きを再現し、24時間稼働できる。今年7月には熟練の「目」となる画像解析機能を加えた2台目を導入し、細胞の形や変化を観察する工程も担う。
主力のがん免疫治療薬「オプジーボ」の特許切れを控え、iPS細胞を活用した創薬の成否は、同社の命運を左右する。勝又清至研究本部長(54)は「人とロボット、AIが協力し、新たな薬を生み出していきたい」と意気込む。
バイオ医薬品
薬の開発は「種」となる物質(成分)を見つけたり、化学的に作り出したりする研究から始まる。化学分野の基礎研究に優れた日本は当初、世界市場を席巻したが、化合物の探索が進み、種が「枯渇状態」となるにつれ、バイオ医薬品といった新たな創薬の流れが生まれ、出遅れた。
医療用医薬品の世界売り上げ100品目(国別起源)では、08年に米国に次ぐ2位だったが、その後、スイスや英国などに抜かれ、6位まで後退している。
「どれだけ速く、効率良く開発できるかが永遠の課題」(塩野義製薬の手代木功会長兼社長)となる中、人間には到底不可能なスピードを実現していくAIが持つインパクトは大きい。
米金融大手モルガン・スタンレーは、開発初期のAI活用が今後10年で50の治療法につながり、500億ドル(7兆7500億円)以上の価値を生むと試算する。