出遅れた日本、AIによるスピード創薬に活路…蓄積データとの融合がカギ
デジタル土台
米モデルナは10年の創業以来、デジタル創薬を掲げ、DX(デジタルトランスフォーメーション)を土台に開発や製造、流通の改革を進めてきた。コロナ禍では、ウイルスの遺伝子配列公表から3日でワクチンを設計し、くすり作りの新たな潮流を世界に見せつけた。
国内では、自社で対話型AIを開発した中外製薬が、開発期間を13年から9年に短縮し、費用も半減させる効果を見込む。通常の5分の1ほど、2年での実用化にこぎ着けた塩野義のコロナ飲み薬「ゾコーバ」の開発もAIが活用された。だが、このスピード創薬のもう一つの主役は、同社が蓄積してきた数十万種類の薬の候補を集めた「化合物ライブラリー」だった。
小野薬品の勝又本部長は「AIはゼロから1を生み出すことが難しい。蓄積したデータといった知見、研究者のセンスが重要であることは変わらない」と話す。 世界初の抗生物質「ペニシリン」は、偶然、実験中のシャーレに青カビが繁殖したことに研究者が気付いたことがきっかけだった。単なる先端技術の活用や仮想空間では、こうした偶然、ひらめきは起きない。
DXとAI、積み重ねてきたデータが創薬の「三種の神器」となり、今後は、自ら持つ経営資源と足らない技術、知見をどう結びつけられるかが問われる。 関西には製薬企業のほか、医療機器メーカーや大学などの研究機関、スタートアップといった多様なプレーヤーが集積する。創薬新時代に見合う新たな連携を生み出せるかが鍵となる。
読売新聞