[新政権の宿題]IGPI冨山和彦氏「今の労働規制では大谷翔平は生まれない」
岸田文雄政権は「スタートアップ育成5カ年計画」をとりまとめ、一定の条件を満たすと税制優遇を受けられる税制適格ストックオプションの要件を緩和するなど、スタートアップ支援に取り組んできた。長年、スタートアップ育成のエコシステム(生態系)づくりに携わる冨山和彦・経営共創基盤(IGPI)グループ会長は、残る課題として労働規制の硬直性を指摘する。 【関連画像】冨山和彦(とやま・かずひこ)氏、東京大学法学部卒業、米スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストン・コンサルティング・グループなどを経て、2003年から産業再生機構の最高執行責任者(COO)。07年経営共創基盤を設立して最高経営責任者(CEO)に就任。20年10月同グループ会長。パナソニックホールディングス社外取締役、メルカリ社外取締役のほか、日本取締役協会の会長も務める。(写真=厚地 健太郎) スタートアップを巡る日本の現状をどのように見ていますか。 冨山和彦・経営共創基盤(IGPI)グループ会長(以下、冨山氏):意外にネガティブな状況ではありません。20年ほど前とは比べものにならないくらい起業しやすくなっています。岸田政権下でも、国としてカバーすべき環境の整備はかなり進みました。 例えば、税制適格ストックオプションの要件緩和や資金循環に関わるエコシステムづくりなどはだいぶ良くなったと思います。特にストックオプションについては、新株予約権の行使価額限度額が引き上げられ、今では世界有数の制度と言えるのではないでしょうか。 ●自由に働き方の条件を定められる契約型労働を 一方で、労働規制は残された課題の1つです。現在の労働規制はいわゆるブルーカラーと呼ばれる比較的立場の弱い労働者を守る視点でつくられ、会社と労使の交渉力は対等ではなく会社優位だとの前提に立っています。加えて、基本的には終身雇用を原則とした労働契約体系となっています。 ディープテック(先端技術)などハイテク分野のスタートアップは売り手市場ですし、働き手は嫌になればすぐに転職できます。一生同じ会社で働こうと思っている人はまずいません。さらに言えば、並外れた成果を出したいと思っている人たちにとっては、働かせすぎない規制がかえって不自由だと感じてしまうこともあります。 ある世界で(米大リーグ・ドジャースの)大谷翔平選手のように圧倒的な存在になりたいと思っているのに、練習時間を制限されたら困りますよね。現在の日本的な労働規制とスタートアップの働き方は相性が悪いと言わざるを得ません。 労働規制をどのように変えればよいのでしょうか。 冨山氏:労働契約の一般法は、どうしても立場の弱い人に合わせる必要があります。そのため、スタートアップなどでバリバリ頑張って働きたいという人向けには、ホワイトカラー・エグゼンプション(脱時間給制度)のような考え方を採用するしかないと思います。 つまり、労働時間を規制するのではなく、しっかりとした解除規約を設けた上で、自由に働き方の条件を定められる契約型労働を認めていくということです。米シリコンバレーなどと同じように会社と労働者が対等な立場で契約して働くという選択肢をつくらなければ、優秀な人材は集まりません。