初詣で大賑わいだが…京都「八坂神社」でご利益が得られるのか 不安になる歴史的理由
牛頭天王に戻ってもらえないのか
疫病を退けてくれる神様として、1000年の長きにわたって信仰されてきた牛頭天王を、自分たちの統治上の都合だけで勝手に排除し、強引に祭神を入れ替えさせたのが明治政府であった。 八坂神社にはいま、承応3年(1654)に徳川綱吉が再建した国宝の本殿を筆頭に、明応6年(1497)に再建された西楼門をはじめ重要文化財の建築が数多く建ち並ぶ。このように歴史と伝統がある神社なのだが、そこに祀られている神はといえば、150余年前に入れ替えられ、1000年にわたる信仰と切り離された、由緒もへったくりもないものなのである。 現世利益があることになっているが、そんなものに対して拝んだところで、かえって排除された牛頭天王の怒りを買うのではないか。だから、新型コロナウイルスも流行したのではないか――。そんな嫌みのひとつもいいたくなってしまう。 いまはもう明治政府の神仏分離令に従うべき理由などどこにもないのだから、1000年にわたって礼拝されてきた牛頭天王に、ふたたび主祭神として戻ってきてもらうことはできないものか。明治政府による歴史と文化と伝統の破壊に対する穴埋めを、いまからでもしてほしいと願う。 また、参拝者にもぜひ、この歴史的事実を知ってもらいたい。ただ、日本の多くの寺社がこうしたおぞましい歴史をかかえているので、八坂神社にかぎらずその歴史を調べると、救われたいはずが、救いようのないむなしさに襲われることを、覚悟しなければならないが。 香原斗志(かはら・とし) 音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。 デイリー新潮編集部
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