今 日本ボクシング界は黄金期なのか ――世界戦8試合の現状を読み解く――
前田氏が指摘した8大世界戦が米国のアトランティックシティで開催されたのが、2003年12月だ。湾岸戦争のさなか、最前線の兵士に「クリスマスプレゼントを」というコンセプトで、有名なプロモーターのドン・キングが、「NIGHT OF THE UNDISPUTED」と銘打って8大タイトル戦を行った。メインは、バーナード・ホプキンス(米国)対ウィリアム・ジョッピー(米国)のWBA、WBC、IBF世界ミドル級統一戦だったが、8時間以上にわたって行われた興行は、徐々に空席が目立ち、メインが終わったのが夜中の1時過ぎで1万5000人収容可能の会場には1万人も残っていなかったという。以来、これほどまでの規模での複数タイトル戦は行われていない。 今回の年末は、30日、31日と2日に分かれての8試合だが、実は、早い段階でフジテレビも、大晦日にぶつけるという構想があって、プロモーターとマッチメイカーが反対したという裏事情がある。東京の2会場での同日開催では、ファンもばらけ、視聴者も別れ各ジムが共存共栄しなければならないボクシング界発展に必ずしもならないという判断で、当初は12月のもっと早い時期での開催を希望していた。 ボクシング協会会長でもある大橋会長も世界戦乱立による弊害を危惧している。 「こうやって世界タイトル戦が増えてくると、マッチメイクと試合の内容が問われるようになってくる。八重樫は敗れたのにロマゴンとの激闘が評価された。ファンは、面白い試合には、興味をもってくれる。世界チャンピオンのベルトはもちろん大事だが、これからは、ボクサーそのものの質が重要になってくるだろう。その意味で、個性と実力を兼ね備えたチャンピオンが増えている今は、新しい黄金時代の入り口に立っていると思う。特に井上と12年間も世界王者のままでいるナエバレスの試合は、黄金時代への扉を開けるターニングポイントなる試合だ」 現役時代に世界王者不在の時代をストップしたことのある大橋会長ならではの意見。年末のテレビのプライムタイムをボクシングが独占するのだから、普段はボクシングを見ない層にアピールするには絶好の機会だ。かつてPRIDE、K-1という総合、立ち技系格闘技も大晦日興行がブームを加速させた。 ボクシング界が、今、第4次黄金時代の入り口に立っているなら、この世界戦8試合には重要な役目がある。「97パーセント負ける」と言っている天笠が五輪連覇のリゴンドーを破れば史上最大の番狂わせと話題になるだろう。21歳の井上がレジェンドボクサー、ナルバエスに土を付ければブレイクの足がかりとなるだろう。山中、内山、そして井上、八重樫ら個性と実力を兼ね備えた王者と、次代の王者候補が、今後、強気のマッチメイクを重ね、そのファイト内容が評価され、同時にテレビが、巧みに健全なプロモーションを重ねれば人気もついてくる。 本物が求められる時代だからこそ「世界で最も強い男」の登場を人々はどこかで待ち望んでいる。 (文責・本郷陽一/論スポ、アスリートジャーナル)