「女性主人公」の警察ドラマがいま増えるのはなぜ 演技力に定評 松岡茉優『ギークス』と小芝風花『GO HOME』
1990年代は、女性主人公の台頭というだけでなく、刑事ドラマというジャンル自体の転換期でもあった。それまで刑事はあくまでヒーローだったが、刑事もまた普通の人間として描かれるようになった。 その記念碑的作品が、織田裕二主演の『踊る大捜査線』(フジテレビ系、1997年放送開始)である。 「刑事もサラリーマンである」というコンセプトのもと、銃撃戦のような派手な場面ばかりでなく、パトカー1台を出動させるにも上司のハンコが必要であるとか、一般企業にもありそうな職場としての現実が初めてちゃんと描かれた。「警察の日常」を描く警察ドラマの誕生である。
『ギークス』は、そんな警察ドラマの流れを受け継いでいる。 3人のギークたちのモットーは「ノー残業」。毎週金曜には行きつけの居酒屋に集まって職場の愚痴などを言い合う。事件の推理はそのついでにすぎない。ちょっとした軽い気持ち、ゲーム感覚で謎を解く。捜査会議ならぬ井戸端会議で事件解決というわけだ。 古典的な刑事ドラマなどでは、刑事たちは昼夜を問わず事件を捜査し、犯人逮捕のために生活のすべてを捧げる刑事の姿が往々にして描かれる。当然、夕方5時の定刻で仕事が終わりということはない。「ノー残業」などもってのほかという感じだ。
ところがこのドラマは、その真逆を行く。そしてそれでも事件は解決する。「働き方改革」の時代の警察ドラマである。 働き方改革の要素は、綾野剛と星野源がダブル主演を務めた『MIU404』(TBSテレビ系、2020年放送)にも盛り込まれていた。 綾野剛演じる伊吹藍と星野源演じる志摩一未が所属する第4機動捜査隊は、麻生久美子演じる機動捜査隊長の桔梗ゆづるが、隊員の負担を減らす働き方改革を実現するために立案した部署という設定だった。
『ギークス』は、「警察の日常」を描くだけでなく、働き方改革という時代の変化を反映し始めた警察(刑事)ドラマの流れを汲んでいる。 そもそも、『ギークス』の松岡茉優も『GO HOME』の小芝風花も警察官役ではあるが刑事役ではないというところが面白い。警察ドラマの定番である刑事ドラマとは、まずそこが異なる。 今年は、かつて大人気だった名作刑事ドラマが復活したり、再び注目を集めたりする現象が続いている。